冷徹竜王の花嫁Ⅰ【完】
(声が似ているけど、きっと他人だよね…)
その場を立ち去ろうとしたが、足はなぜかその場を離れようとしない。
「しかし、あの皇女も随分と阿呆だな。愛されていると勘違いしているとは」
下品な笑い声が聞こえる。
「えぇ。僕は一度も愛した事がないと言うのに、可哀想な人ですよ」
僅かな希望を胸に抱く。
けれど、知らないふりをしてみただけで、本当は既に気付いていた。
部屋の中にいる人物がケレイブ様だと言う事を。
拳を強く握りしめる。
爪が手の平に食い込んで痛みが走る。
悔しい。
悲しい。
腹立たしい。
けれど、涙は出てこない。
自分が今、酷い表情をしている事は分かる。
しかし、感情が上手くまとまらない。
とにかく相手が憎い。
信じていたのに。