冷徹竜王の花嫁Ⅰ【完】
不穏なニオイ
贅の施された邸に、荒々しくドアを閉める音が響き渡る。
「お帰りなさいませ。旦那様」
機嫌の悪い男性は目線を向けたものの、玄関で出迎えた数人の使用人達を無視して、横を通り過ぎる。
『機嫌の悪い旦那様には、関わるな』
それが暗黙のルールで。
使用人達は、彼の機嫌を損ねないようにと細心の注意をはかりながら、各自作業に取り掛かり始めた。
「あら、お父様!」
花の咲いたような笑顔で向かいから歩いて来たのは、ルティアン・モゼ・ベルデーク。
ベルデーク公爵の一人娘だ。
無邪気なその姿に、ベルデーク公爵の表情が自然と穏やかになる。
「王城でのご用事は済みましたの?」
「あぁ。王様は朝早くに出発なさり、お会い出来なかった。だが、帰りに噂の珍しい方に会ったよ」
"噂の"と言う言葉に、ルティアンは反応する。