あの夏の日にもう一度
 私たちは、2年前の花火大会に始まった。
営業3課の親睦を兼ねてみんなで行った花火大会。
私は、大好きな遠山(とおやま)課長に少しでも気に入られたくて、頑張って浴衣に下駄で参加した。

 けれど、その帰り道、慣れない下駄の鼻緒で足の甲の皮が、靴ずれのように剥けてしまった。
痛くて、痛くて、もう全然歩けない。

「あの、先に行ってください。
 私は、後からゆっくり行きますから」

私は申し訳なくて、みんなにそう言った。

「じゃあ、俺が残るよ。
 みんな、お疲れ。気をつけて帰れよ」

課長はそう言って、1人、私と共に残ってくれた。

「あの、大丈夫です。
 課長も行ってください。
 1人でなんとかなりますから」

せっかく課長のために着飾ってきたのにこんなことになって、情けなくて、恥ずかしくて、私は課長から離れたかった。

だけど…

結城(ゆうき)1人に出来るわけないだろ。
 ナンパされたらどうするんだ?」

課長は真面目な顔でそんなことを言う。

「大丈夫ですよ〜
 私がナンパなんかされるはずが
 ありませんから」

はっきり言って、私は全然モテない。

身長170㎝の長身は、女子にはモテても男子にはサッパリだった。

「………じゃあ、俺がナンパしていい?」

「は?」

課長、どうしたの?

突然真剣な顔で覗き込んでくるから、私もどうしていいか分かんない。

「結城、俺と付き合ってくれないか?」

「はぁ……
 いいですけど、どこにですか?
 あ、でもその前に、コンビニで絆創膏を
 買ってもいいですか? 」

私の返事を聞いて、課長はがっくりとうなだれる。

なんで?

「結城、お前、鈍いにも程があるだろ。
 なんでそうなるんだ!?」

「え?」

何が!?

「だから!
 俺はお前が好きだって言ってるの‼︎
 俺と付き合ってくれないか?」

「えっ!? は? ええ!?」

嘘!?

だって、課長は社内でも1、2を争うイケメンで、30歳で課長の彼は、誰よりも出世が早くて、将来の社長候補とも言われる人で、だから社内最後の大物独身男性って言われてるのに…

なんで私?

本気?

私は、足が痛いのも忘れてその場に固まってしまった。
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