あの夏の日にもう一度
「結城、返事は?」

「え、あ、はい」

ぼぉーっとしてるところに尋ねられて、私は思わず返事をしてしまった。

「……一応、確認しておくけど、今のはOKの
 返事ってことでいいんだよな?」

「え? あ、ちがっ、ええ!?」

もう混乱して、どうしていいか分からない。

「はぁ……
 その天然っぷりが結城の良さだけど、
 毎回振り回される俺の身になってみろ」

「ええ!?
 そんな、だって、私、別に課長のこと、
 振り回してませんよ?」

そんな身に覚えのないこと、言われても…

「結城にそのつもりはなくても、俺は
 振り回されてるんだよ。
 ちょっとは気付けよ」

そんなこと言われても…

戸惑う私の頭をくしゃっと撫でた課長は、突然私の脇に手を入れた。

「っっっ!?」

驚いた私が息を飲む間に屈んで膝裏にも手を入れ、一瞬でお姫様抱っこされてしまった。

「あのっ‼︎ 課長‼︎」

声を掛けると、

「浴衣って、見てる分にはいいけど、
 抱き上げると帯が邪魔だな」

と、どうでもいい感想を呟く。

いや、今、重要なのはそこじゃなくて…

「あの、課長、恥ずかしいので、下ろして
 ください」

私、重いし。

「でも、結城、歩けないだろ?」

課長は、何を言っても下ろしてくれなくて、私はコンビニまで花火帰りの人混みの中を、お姫様抱っこで通り抜ける羽目になった。

高身長の私は、決して太ってはいないものの、一般的な女子に比べてかなり重いと思う。
だって、身長が1㎝違えば、体重も1㎏増えるんだよ?
150㎝小柄な子に比べたら20㎏重い計算になる。

コンビニの入り口でようやく下ろされ、イートインコーナーの椅子に腰掛けると、課長が絆創膏を買ってきてくれた。

「ありがとうございます」

お礼を言って絆創膏を受け取ろうとしたが、課長はさも当然のように箱を開け、絆創膏を取り出すと、

「ほら、足出せ」

と命令する。

いやいや、足だし、貼ってもらうとか無理だし。

「いえ、これくらい、自分でできますから」

と言ってるそばから、ガシッと足首を掴まれて下駄を脱がされた。

「っっっ‼︎ 」

驚きすぎて言葉にならない私は、結局、されるがまま左右の足の甲に絆創膏を貼ってもらった。

「はい、おしまい」

課長に足を解放されて、私は再び下駄を履く。

「ありがとうございました」

頭を下げた私に、課長は言った。

「どういたしまして。
 俺の未来の嫁の大事な足だからな」
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