あの夏の日にもう一度
「和叶はなんでここにいるんだ?」

「今日は記念日だから、
 なんとなくここに来たくて。
 慎ちゃんは?」

「俺も。
 でも、まさか和叶に会えるとは
 思ってなかった」

「私もだよ」

私たちは、たこ焼きとビールを買いにコンビニへと向かった。

「和叶、これも買うか?」

慎ちゃんが手にしてるのは、絆創膏。

「いらないよ!
 今日は下駄じゃないもん」

あっという間に時間が4ヶ月巻き戻った気がする。

 慎ちゃんが右手に温めたたこ焼き、左手に冷たいビールを持つ。

私は慎ちゃんからビールを取り上げて腕を組んだ。

慎ちゃんは、私を見て微笑んでくれる。

私たちは河原でこの4ヶ月出来なかったいろんな話をした。

「慎ちゃん、なんであの時別れようなんて
 言ったの?
 遠距離は無理だと思った?」

私が聞くと、慎ちゃんは視線を河原に移してとつとつと答えてくれた。

「俺の場合、役職こそ課長のままだった
 けど、明らかに左遷だろ?
 そんな俺が和叶を一生幸せにできるかって
 考えたら、無理だと思った。
 それなら、俺じゃない誰かに幸せに
 してもらう方がいいんじゃないかって」

「そんなの… 」

無理に決まってる。
私の幸せは慎ちゃんといることなんだから。

「別れて気付いたんだ。
 和叶がいないと、俺が幸せになれないって。
 それでも、和叶の幸せのために耐えようって
 決めた。
 最後に和叶に告白した場所で、自分の思いに
 決着をつけようと思って、有休取って
 来たんだ。」

「わざわざ? 慎ちゃんが?」

慎ちゃんが有休を取ることなんて、滅多にない。

毎年20日くらい捨ててたはず。

その慎ちゃんが有休を取ってまで今日ここに来てくれた。

「そ、わざわざ。
 わざわざ来たら、
 踏ん切りが付くんじゃないかと思って」

「それで?
 踏ん切りは付いたの?」

付くわけないよね。

私は自信満々でにこにこ微笑んで尋ねる。

なのに……

「……付いたよ」

「え?」

嘘…

なんで?

だって…

今もこんなに仲良く過ごしてるのに……

さっき止まった涙がまたじんわりと滲んでくる。

今、泣いちゃいけないのに。

ちゃんと慎ちゃんと話さなきゃ。

泣いて終わったら、あの春霞の日と同じになっちゃう。

「和叶。
 和叶を幸せにするとは約束できないけど、
 和叶を悲しませることはしないよ。
 だから、俺と結婚してくれないか?」

「え?」

あれ?

踏ん切りが付いたんじゃ?

「えっと、もう一回… 」

「和叶、結婚しよう」

なんかよく分かんないけど…

「はい!」

返事をした私は、また涙が止まらなくなった。

慎ちゃんは私の肩をギュッと抱いて、反対の手の甲でそっと涙を拭ってくれた。

私は、それがうれしくて、無理矢理笑って見せる。

慎ちゃんはそのまま優しく私の唇に自分のそれを重ねた。

久しぶりのキスはたこ焼きの香りがした。





こうして、私たちのお付き合い記念日は、プロポーズ記念日になった。

私は、一生この日を忘れないだろう。

慎ちゃん、愛してる。

もう一生離れないから、覚悟してね。


─── Fin. ───
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