寡黙なダディの秘めない愛情
「俺はこれ以上嫁に稼がせるつもりはない。それに誰がシングルマザーだ」

「痛ぇ・・・!てめえ、何しやがる」

美咲の肩を掴もうとした男の腕を、突然大きな影が遮り、男の腕を締め上げた。

「俺の美咲に手を出して生きて帰れると思うなよ」

「Get out of here, if you want to live.(死にたくなければとっとと失せろ)」

180cm以上のダンディなイケメン二人、しかも一人は外国人だ。

チンピラレベルの男達は、ジムと蓮の腕を振り払うと

「お、覚えてろよ」

と、小学生レベルの捨て台詞を吐いて逃げていった。

一瞬固まった駅前広場の動きが再度、スムーズに流れ始めたが、依然、蓮の周りにはブリザードが吹き荒れていた。

「育己。これはどういうことだ」

「蓮くん、いっくんは全く悪くないでしょ?」

「いや、俺がいない間は゛母さんは僕が守る゛と育己は言った。あれは口先だけか?お前はなんのために格闘技を習っている」

蓮の言葉に育己は唇を噛み締める。

現にチンピラ相手に怯んだのは間違いないからだ。

「イクミはまだ中学生だよ。蓮みたいに゛お茶の子さいさい、鬼退治、ヘイ゛というわけにはいかないよ」

相変わらず変な日本語が好きなこの人は、ジム・アレン、蓮と同じ47歳のアメリカ人。

そして、ミサの父親。

昔は英会話講師をしていたが、現在は八雲メディカルで蓮の秘書兼通訳をしている。

おちゃらけてその場を和ませようとするジムと違って、育己に向ける蓮の視線はナイフのように冷たかった。

しかし、美咲の柔らかな声が静寂を切り裂く。

「親が息子に守られてどうするの?あれくらいなら私でも追い払えたわ。ナンパだって何人も追い払ったしね、いっくん」

「ナンパ・・・?何人も・・・?」

地を這うような蓮の声にも美咲は全く動じずニコニコしており

「ナンパって言っても高校生とか大学生ばかりだよ?からかわれただけだから気にすることないし」

美咲がのんきに紡ぐ言葉が益々、蓮の怒りゲージを上げていることに気づかない。

「Zip your lips, Misaki(ちょっと黙ろうか、美咲)」

美咲の暴走を止めたのは、ミサと夏美を連れたホイットニー41歳だった。
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