始まりはクールな御曹司とのとろける様な一夜から
『ごめん…私が歩きたいって行ったから…』


そう言った瞬間、悠人は、急に切ない顔になって、私を抱きしめた。


口元から漏れる熱い息が、私の耳元にかかる。


『穂乃果…』


ただ、名前を呼ばれただけなのに、そのあまりに魅惑的な囁きに、思わず腰が砕けそうになった。


悠人は、そんな私を支えるかのように、少し腕の力を強くした。


『俺…見たんだ、穂乃果が輝と駅まで歩いてるのを…』


え…


2人とも言葉が止まった。


悠人は、私から離れようとはしない。


『急にお前が心配になって、タクシーで駅に向かいながら、穂乃果のこと探した』


そうだったんだ…


全然知らなかった…


『駅前で、穂乃果と輝を見つけたけど、声をかけられなかった…』


『どうして?声かけてくれたら良かったのに…ねえ、悠人、お願い、離して』


私は、悠人の腕が少しキツく感じた。
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