極上御曹司はウブな彼女を独占愛で堕としたい
その後の記憶は曖昧で、ただ、手も足もジンジン痛むのだけは感じていた。
何処を歩いていたのかも分からないけど、ちゃんと約束の時間にオフィスビルの前にいたようだ。
ここの高層フロアには流星さんがいる。
逢いたい…だけど逢いたくない…相反する思考が交差する。
「叶!」
声を掛けられ振り向くとスーツを着た風雅さんが向かって来ていた。その姿に一瞬流星さんかと思って目を瞠った。どことなく顎のラインは似ている。でも、黒髪じゃない、背も少し低い、私の好きな碧い瞳じゃない。
流星さんと違うところを確認して私はがっかりしていた。そんなの風雅さんに失礼だと、気を取り直して笑顔を向ける。
「風雅さん、スーツに着替えたんですね。素敵です」
「そりゃもちろん。上層階はドレスコードがあるからね」
「そ、そうですよね」
あのときそれを知らずに私は普段着で行ってしまって今更恥ずかしい。
「叶も可愛いよ、やっぱりそのワンピース似合ってる」
「あ…りがとう…ございます…」
甘く微笑まれて声がだんだん小さくなっていく。その顔はやめてほしい。つい流星さんの笑顔と重ねてしまうから…。
「上のレストラン予約してるんだ。行こう」
手を握られ一瞬風雅さんが驚いた顔をした。
「叶、手が冷たいね。寒くない?」
「はい…大丈夫です」
ぎこちない笑顔で答えると風雅さんはい繋いだ手をギュと握って私を連れて行った。
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