極上御曹司はウブな彼女を独占愛で堕としたい
この庭園を歩くとどうしても母の事を思い出し切なくなるのだが、それでも自分も学生でありながら、父を手伝いここの仕事には携わっていたし、この庭園は気に入っているので時折訪れては散策していた。家からも職場からも近いとはいえ、忙しくなかなか昼間に来れない時は、閉店後に非常階段から上がり一人物思いにふけることもあった。最近は前にも増して夜に訪れることが多く明るい内にここに来るのは久しぶりだ。

叶を初めてここに連れて来たとき、気に入った様子で目を輝かせていたのを見て、つい夜の庭園の行き方まで教えてしまった。夜にあまり出歩くなとは言っていたが俺が出張で居ない時など度々来ていたようだった。今は実家からだと遠くて夜に来ることは無いだろう。

茶室前の枯山水の前で立ち止まりそんな事を考えてた時に声をかけられた。
「よう、流星じゃないか」
「……斗真か」
振り向けば作務衣姿の斗真が重箱を持って立っていた。茶会で出したお菓子の器の回収に来たのだろう。
「珍しいなこんな時間にこんなとこいるなんて」
「ああ、秀弥に仕事し過ぎだと追い出された」
「あっはっはっ!ウケるなお前!それでこんなとこで黄昏てんのか」
遠慮なく笑う斗真にムッとして睨んでやるが斗真はお構いなしに笑い、しまいには近くのベンチに座り込んでいた。

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