極上御曹司はウブな彼女を独占愛で堕としたい
呆然となりながらなんとかお客様をお通ししてキッチンに逃げ込んだ。
紀子さんも来て気遣わしげに大丈夫?と聞いてくれたけど、私は頷くのが精いっぱい。
旦那さまが私にお茶を用意しろと言うので、紀子さんがお茶を入れそれを私が運ぶ。
テーブルに置く時ソファーに座る新山さんがじっと私を見ているようで手が震えた。
「こちらは旧華族新山家のご令嬢でな、新山総合株式会社の会長のお孫さんだ。彼女は今そちらで専務秘書をしておられる。美しく聡明で流星の妻に相応しいと思わんか?」
「さようですね」
旦那様は私に話しかけてるようだったけど、私は返事を出来なかった。代わりに武雄さんが答えてくれる。
「良縁だと言うのに流星の奴お見合いを断ったんだ、今日わざわざ会社まで来てもらったというのに。だからうちに招待した。彼女に会ったら流星だってその気になるだろ?」
楽しそうに笑う旦那さま。私は胸が苦しくてお辞儀をしてまたキッチンに逃げ込んだ。
「叶ちゃん…」
紀子さんは顔面蒼白の私が立ち尽くしているのを見て何も言わず抱きしめてくれた。
私はただ震えるばかりでまるで母のようなその暖かさに目を瞑った。
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