お見合い結婚します―お断りしましたが?
23.奈緒と同じ部屋に泊まることになった!
しばらくして母が僕を2階へ呼んだ。
「これでいい? お布団は誠たちが泊まっていくときに使っているものが2組あるから」
僕の部屋に2組の綺麗なふとんが敷かれていた。ええー!
「母さん、2階には2部屋あるだろう、部屋は別々にしてくれないか?」
「あなた方はもう婚約しているのでしょう。せっかくだから一緒の部屋でいいでしょう」
「それじゃあ困るんだ」
「どうして?」
「どうしても」
「でも1部屋しか使えないの」
「ええっ、兄貴の部屋があるだろう」
「誠が結婚して自分の荷物を持っていったから、いまは物置になっているの」
すぐに隣の部屋を見に行った。物置になっていて足の踏み場もない。奈緒に何と言おう? 困った。
「そうなら、早く言ってよ、ホテルに奈緒さんの部屋を取るんだった」
しかたなく、母と二人で1階へ降りた。それから、奈緒に声をかけた。
「奈緒さん、申し訳ないけど、2階で部屋を見てくれないか?」
「分かりました」
すぐに奈緒は僕と一緒に2階に上がった。
「ごめん、兄貴の部屋と僕の部屋の2部屋が使えると思っていたのだけど、それが、この部屋をまず見てほしい」
「物置になっていますね。ということは」
「僕の部屋に二人で寝てほしいと母が言っている。兄貴の部屋がこうなっているとは知らなかった。申し訳ない」
渋々僕の部屋を開けた。6畳の部屋に布団が並べて敷いてある。奈緒には刺激的だろう。じっと見ていて動かない。
「ごめん、後で布団を廊下に移して、僕は廊下で寝るから」
「それには及びません。お母様がなんと思うか。そんなことはしないで下さい」
「じゃあ、一緒でもいいのか?」
「約束を守っていただければかまいません」
「神様に誓って約束は守る」
「それじゃあ、お母様にお礼を言いに行きましょう」
キッチンですき焼きの準備をしている母親に奈緒は部屋の準備のお礼を言った。母は嬉しそうに仲良くしてねと言った。僕はその言葉を顔を引きつらせて聞いていた。
奈緒とあんなに近くで寝させられて、じっと我慢しなくてはいけない。すごく辛い。まあ、顔を見ながら寝るのもいいか!
夕食のすき焼きを食べながら話が弾んだ。父も今度は運転することもないのでビールを飲んで機嫌がいい。母も奈緒も飲んでいた。
母は上機嫌で父との結婚までの話をしていた。二人は熱烈な恋愛結婚で、兄貴を妊娠したので、結婚したと聞いた。僕には初めての話だった。
それに僕たちは見合い結婚になるけど、経緯からすると恋愛結婚と同じだとも言っていた。だから、2階の部屋のことも納得ができた。母はそれほどのこととは思っていない。奈緒も納得したと思う。
母は奈緒に気を遣って、彼女には何もさせなかった。夕食の準備も後片付けも一切手伝わせなかった。奈緒が気を遣って後片付けのお手伝いをしますと言っても、座ってゆっくりしていてと言うだけだった。奈緒も大切にされていると思ったのか、嬉しかったようだ。
それから、4人で食後のデザートにフルーツを食べた。それから僕の入れたコーヒーを飲んだ。父がお風呂の準備をしてくれた。
母は奈緒の寝巻にと浴衣を出してきた。母が若いころに来ていたもので、娘ができたら着せようとしまってあったものだと言う。薄緑の地に濃いピンクの小さな花があしらわれている。奈緒に似合いそうだ。赤い帯もある。奈緒も気に入ったみたいでありがとうございますと言っていた。
「じゃあ、奈緒さんからお風呂に入って休んでください」
後でいいと言っていたが、促されて奈緒はお風呂に入った。お風呂から上がると浴衣姿でリビングにいた僕たちに挨拶して2階の部屋に上がっていった。2階にはトイレと小さな洗面所があるので、もう降りてくる必要がない。
次に僕がお風呂に入った。奈緒が裸で入っていたと思うとつい興奮する。想像するだけなら奈緒との約束を破ることにはならないだろう。
お風呂から上がって部屋に入ると奈緒が布団の上に座っていた。
「どうしたの? 不束者ですが、よろしくお願いしますとでも言うの?」
「いえ、優しいお母様ですね。そう言いたくて」
「ああ、伝えておくよ」
「もう寝ましょう」
「その言葉は刺激的だからやめてくれ、約束が守れなくなる」
二人はすぐに布団に入って横になった。明かりを消して枕元のスタンドの明かりだけにした。
僕は奈緒の方を見て横たわったが、奈緒は上向きに寝た。せめて見つめ合って眠りたかった。手を伸ばせ届くところに奈緒が寝ている。
「いびきをかくかもしれないけど、勘弁して」
「私も寝言を言うかもしれませんが、気にしないで下さい」
「ええ、そうなの? 何て言うのか聞いてみたい」
「言う時もあると言うことです」
「おやすみ」
夜中に「嫌です。だめです」という声で目が覚めた。奈緒が「うーん」と唸っているところを見ると、寝言に間違いない。僕に約束を破られている夢でも見ているのか? そんなに信用がないのか? 明日の朝、聞いてみよう。
しばらくすると静かになった。奈緒が寝返りをして横向きになってこちらを向いて眠っている。寝顔を見るのは初めてだ。安心したような安らかな顔をしている。じゃあ、さっきの寝言はなんだったのだろう。早くこの腕に抱きしめて眠りたい。
◆ ◆ ◆
洗面所の水音で目が覚めた。奈緒がもう起きて身繕いを始めている。しばらくして部屋に戻ってきた。浴衣姿が艶めかしい。もう化粧もしている。
「起きて下さい。着替えをしますから、ちょっと出ていてもらえますか?」
「ああ」
僕も歯を磨いて、髭を剃って、顔を洗った。どうぞと言ってドアが開いた。もう着替えている。二人の布団は畳まれて部屋の隅に置かれていた。
「よく眠れた? いびき大丈夫だった?」
「ぐっすり眠れました。やっぱり、ご両親にお会いしたので緊張して疲れていたのかもしれません」
「寝言を言っていたよ」
「本当ですか?」
「ああ、大きな声で、嫌です、だめです、と言っていた。だから夜中に目が覚めた」
「記憶にありません」
「夢ってその時に起こされると覚えているそうだけど、ほとんどの夢は記憶に残らないそうだ」
「寝言でも言われたのはショックだった」
「ごめんなさい。でも昨夜は安心して眠れましたからそんなことはないと思いますが」
「まあ、お陰で可愛い寝顔が見られたから良しとしよう」
二人で下に降りて行くともう朝食が準備されていた。我が家は昔から朝はパン食だ。奈緒は家でも朝はパン食だと言っていた。母はそれを聞いて嬉しそうだった。
新幹線が動いていることを確認した。11時過ぎの列車に乗ることにした。朝食の後、時間があるので家の近くを案内することにした。徒歩10分くらいのところに観光名所の妙立寺があるので行ってみることにした。
予約が必要であるが、昨日の午後に新幹線が止まっていたので、思っていたとおり、キャンセルがあって、すぐに入れた。それから西茶屋街を回ってきた。1時間ほどで戻ってこられた。すこしは観光させてあげられてよかった。
10時過ぎに駅まで車で送ってもらった。僕が切符を買っている間に、母親と奈緒は土産物売り場に行った。そこで母は奈緒の両親にとお菓子の詰め合わせ買って渡したという。奈緒も美味しそうなお菓子を買ったと言っていた。僕は二人のお昼用にお弁当とお茶のボトルを買った。
発車後、しばらくして奈緒は「来てよかった。お母様も優しい人でよかった」と言った。母親ともうまくやっていけそうなので安心した。
「これでいい? お布団は誠たちが泊まっていくときに使っているものが2組あるから」
僕の部屋に2組の綺麗なふとんが敷かれていた。ええー!
「母さん、2階には2部屋あるだろう、部屋は別々にしてくれないか?」
「あなた方はもう婚約しているのでしょう。せっかくだから一緒の部屋でいいでしょう」
「それじゃあ困るんだ」
「どうして?」
「どうしても」
「でも1部屋しか使えないの」
「ええっ、兄貴の部屋があるだろう」
「誠が結婚して自分の荷物を持っていったから、いまは物置になっているの」
すぐに隣の部屋を見に行った。物置になっていて足の踏み場もない。奈緒に何と言おう? 困った。
「そうなら、早く言ってよ、ホテルに奈緒さんの部屋を取るんだった」
しかたなく、母と二人で1階へ降りた。それから、奈緒に声をかけた。
「奈緒さん、申し訳ないけど、2階で部屋を見てくれないか?」
「分かりました」
すぐに奈緒は僕と一緒に2階に上がった。
「ごめん、兄貴の部屋と僕の部屋の2部屋が使えると思っていたのだけど、それが、この部屋をまず見てほしい」
「物置になっていますね。ということは」
「僕の部屋に二人で寝てほしいと母が言っている。兄貴の部屋がこうなっているとは知らなかった。申し訳ない」
渋々僕の部屋を開けた。6畳の部屋に布団が並べて敷いてある。奈緒には刺激的だろう。じっと見ていて動かない。
「ごめん、後で布団を廊下に移して、僕は廊下で寝るから」
「それには及びません。お母様がなんと思うか。そんなことはしないで下さい」
「じゃあ、一緒でもいいのか?」
「約束を守っていただければかまいません」
「神様に誓って約束は守る」
「それじゃあ、お母様にお礼を言いに行きましょう」
キッチンですき焼きの準備をしている母親に奈緒は部屋の準備のお礼を言った。母は嬉しそうに仲良くしてねと言った。僕はその言葉を顔を引きつらせて聞いていた。
奈緒とあんなに近くで寝させられて、じっと我慢しなくてはいけない。すごく辛い。まあ、顔を見ながら寝るのもいいか!
夕食のすき焼きを食べながら話が弾んだ。父も今度は運転することもないのでビールを飲んで機嫌がいい。母も奈緒も飲んでいた。
母は上機嫌で父との結婚までの話をしていた。二人は熱烈な恋愛結婚で、兄貴を妊娠したので、結婚したと聞いた。僕には初めての話だった。
それに僕たちは見合い結婚になるけど、経緯からすると恋愛結婚と同じだとも言っていた。だから、2階の部屋のことも納得ができた。母はそれほどのこととは思っていない。奈緒も納得したと思う。
母は奈緒に気を遣って、彼女には何もさせなかった。夕食の準備も後片付けも一切手伝わせなかった。奈緒が気を遣って後片付けのお手伝いをしますと言っても、座ってゆっくりしていてと言うだけだった。奈緒も大切にされていると思ったのか、嬉しかったようだ。
それから、4人で食後のデザートにフルーツを食べた。それから僕の入れたコーヒーを飲んだ。父がお風呂の準備をしてくれた。
母は奈緒の寝巻にと浴衣を出してきた。母が若いころに来ていたもので、娘ができたら着せようとしまってあったものだと言う。薄緑の地に濃いピンクの小さな花があしらわれている。奈緒に似合いそうだ。赤い帯もある。奈緒も気に入ったみたいでありがとうございますと言っていた。
「じゃあ、奈緒さんからお風呂に入って休んでください」
後でいいと言っていたが、促されて奈緒はお風呂に入った。お風呂から上がると浴衣姿でリビングにいた僕たちに挨拶して2階の部屋に上がっていった。2階にはトイレと小さな洗面所があるので、もう降りてくる必要がない。
次に僕がお風呂に入った。奈緒が裸で入っていたと思うとつい興奮する。想像するだけなら奈緒との約束を破ることにはならないだろう。
お風呂から上がって部屋に入ると奈緒が布団の上に座っていた。
「どうしたの? 不束者ですが、よろしくお願いしますとでも言うの?」
「いえ、優しいお母様ですね。そう言いたくて」
「ああ、伝えておくよ」
「もう寝ましょう」
「その言葉は刺激的だからやめてくれ、約束が守れなくなる」
二人はすぐに布団に入って横になった。明かりを消して枕元のスタンドの明かりだけにした。
僕は奈緒の方を見て横たわったが、奈緒は上向きに寝た。せめて見つめ合って眠りたかった。手を伸ばせ届くところに奈緒が寝ている。
「いびきをかくかもしれないけど、勘弁して」
「私も寝言を言うかもしれませんが、気にしないで下さい」
「ええ、そうなの? 何て言うのか聞いてみたい」
「言う時もあると言うことです」
「おやすみ」
夜中に「嫌です。だめです」という声で目が覚めた。奈緒が「うーん」と唸っているところを見ると、寝言に間違いない。僕に約束を破られている夢でも見ているのか? そんなに信用がないのか? 明日の朝、聞いてみよう。
しばらくすると静かになった。奈緒が寝返りをして横向きになってこちらを向いて眠っている。寝顔を見るのは初めてだ。安心したような安らかな顔をしている。じゃあ、さっきの寝言はなんだったのだろう。早くこの腕に抱きしめて眠りたい。
◆ ◆ ◆
洗面所の水音で目が覚めた。奈緒がもう起きて身繕いを始めている。しばらくして部屋に戻ってきた。浴衣姿が艶めかしい。もう化粧もしている。
「起きて下さい。着替えをしますから、ちょっと出ていてもらえますか?」
「ああ」
僕も歯を磨いて、髭を剃って、顔を洗った。どうぞと言ってドアが開いた。もう着替えている。二人の布団は畳まれて部屋の隅に置かれていた。
「よく眠れた? いびき大丈夫だった?」
「ぐっすり眠れました。やっぱり、ご両親にお会いしたので緊張して疲れていたのかもしれません」
「寝言を言っていたよ」
「本当ですか?」
「ああ、大きな声で、嫌です、だめです、と言っていた。だから夜中に目が覚めた」
「記憶にありません」
「夢ってその時に起こされると覚えているそうだけど、ほとんどの夢は記憶に残らないそうだ」
「寝言でも言われたのはショックだった」
「ごめんなさい。でも昨夜は安心して眠れましたからそんなことはないと思いますが」
「まあ、お陰で可愛い寝顔が見られたから良しとしよう」
二人で下に降りて行くともう朝食が準備されていた。我が家は昔から朝はパン食だ。奈緒は家でも朝はパン食だと言っていた。母はそれを聞いて嬉しそうだった。
新幹線が動いていることを確認した。11時過ぎの列車に乗ることにした。朝食の後、時間があるので家の近くを案内することにした。徒歩10分くらいのところに観光名所の妙立寺があるので行ってみることにした。
予約が必要であるが、昨日の午後に新幹線が止まっていたので、思っていたとおり、キャンセルがあって、すぐに入れた。それから西茶屋街を回ってきた。1時間ほどで戻ってこられた。すこしは観光させてあげられてよかった。
10時過ぎに駅まで車で送ってもらった。僕が切符を買っている間に、母親と奈緒は土産物売り場に行った。そこで母は奈緒の両親にとお菓子の詰め合わせ買って渡したという。奈緒も美味しそうなお菓子を買ったと言っていた。僕は二人のお昼用にお弁当とお茶のボトルを買った。
発車後、しばらくして奈緒は「来てよかった。お母様も優しい人でよかった」と言った。母親ともうまくやっていけそうなので安心した。