君がいれば、楽園
「夏加! 夏加もビール?」

 いきなり呼ばれ、驚いて顔を上げるとシャワーを終えた彼が冷蔵庫を覗き込んでいた。

「あ、でもシャンパンもあるのか。それなら、こっちが先か」

 彼は、手際よく小気味いい音を立ててコルクを抜き、グラスに金色の液体を注ぐ。

「一日早いけど、メリークリスマス!」

 乾杯もそこそこに、さっそく料理を食べ始める。

 夕食抜きだったらしく、結構な勢いで料理を平らげていく。

 テレビで流れるニュース。会社の忘年会での笑い話。学生時代の友人のスピード結婚と離婚の話。新発売のコンビニスイーツの評判。植物たちの様子。

 話さなくてはいけないことが、ある。
 それなのに、先延ばしにしたくて当たり障りのない話題ばかりを連ねた。

 美味しそうな料理が喉を通らないのは、つまみ食いしてしまったからだと言い訳して、いつもより早いペースで飲んだ。
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