君がいれば、楽園
 ――このまま、何も訊かずにいれば……。

 臆病な思いが、浮かんでは消える。 

 こんな時はどうすればいいのか。何が正解なのかわからなかった。
 でも、冬麻と一緒にいられないことだけは、わかる。
 
 一緒にいても、苦しいだけだから。

 彼があらかた料理を平らげ、チーズケーキに手をつけはじめたところで、帰省の話題になった。

「夏加の仕事、年内はいつまで? 俺のところは二十七日で、二十八日の便で実家に帰る」

 わたしと冬麻は同郷で、車で三十分もあれば行き来できる距離に互いの実家がある。

 一緒に帰るのも不可能ではないけれど、わたしに突発的な仕事が入る可能性を考えて、いつも飛行機のチケットは別々に取っていた。

「何事もなければ二十八日だけど、飛行機の予約は三十日にした」

「じゃあ、夏加の家に顔出すのは年明けだな」

 当たり前のようにわたしの家族に会うと言う彼に、気づけば首を横に振っていた。

「いいよ、顔出さなくても」
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