君がいれば、楽園
というわけで、死んでも定時で仕事を終わらせなくては、カナコに殺される。
昼休憩をすっ飛ばして死に物狂いでキーボードを叩き、青白い顔をした同僚たちと「XX社の納期は……」と呟く課長を置き去りにして、オフィスを出たのは午後六時。
「意外と早かったね? 夏加。仕事、大丈夫なの?」
オフィスビルの一階にあるカフェで待っていたカナコは、完全武装していた。
私が履いたら生まれたての仔馬ならぬ仔牛のように足がプルプルしそうなハイヒールのブーツ。いい香り漂ってきそうなツヤツヤのロングヘア。特殊メイクのお仕事でもしています? と訊きたくなるくらい高度な技術が駆使された化粧。
そんなカナコの正体が、まさか……だなんて誰も思うまい。
「大丈夫じゃない。でも、飲む! 飲んで飲んで、飲みまくるっ!」
「あはは! よっぽど嫌なことでもあったんだ? まさか、冬麻さんと別れたとか?」
「…………」
氷点下の気温に負けぬくらいテンションが一気に下がったわたしの沈黙に、カナコはマスカラばっちり、カラコンばっちりの目を見開いて、ゲラゲラ笑い出した。
「ちょっとやだー! マジで? 何があったの? 面白そうだから、早く聞かせろや!」
カナコと一緒にいるのが居心地よく思えるのは、彼女が歯に衣着せず、ズバズバ思ったことを口にするからだ。
でも、いまはそんな遠慮のない言葉が、グサグサと胸に突き刺さる。
「面白くとも、なんともない……」
憮然としながら、自動ドアにぶつかりそうな勢いでビルを出た。
三段ほどの階段を下り、歩道に足を踏み出し……そして、見事に転んだ。
昼休憩をすっ飛ばして死に物狂いでキーボードを叩き、青白い顔をした同僚たちと「XX社の納期は……」と呟く課長を置き去りにして、オフィスを出たのは午後六時。
「意外と早かったね? 夏加。仕事、大丈夫なの?」
オフィスビルの一階にあるカフェで待っていたカナコは、完全武装していた。
私が履いたら生まれたての仔馬ならぬ仔牛のように足がプルプルしそうなハイヒールのブーツ。いい香り漂ってきそうなツヤツヤのロングヘア。特殊メイクのお仕事でもしています? と訊きたくなるくらい高度な技術が駆使された化粧。
そんなカナコの正体が、まさか……だなんて誰も思うまい。
「大丈夫じゃない。でも、飲む! 飲んで飲んで、飲みまくるっ!」
「あはは! よっぽど嫌なことでもあったんだ? まさか、冬麻さんと別れたとか?」
「…………」
氷点下の気温に負けぬくらいテンションが一気に下がったわたしの沈黙に、カナコはマスカラばっちり、カラコンばっちりの目を見開いて、ゲラゲラ笑い出した。
「ちょっとやだー! マジで? 何があったの? 面白そうだから、早く聞かせろや!」
カナコと一緒にいるのが居心地よく思えるのは、彼女が歯に衣着せず、ズバズバ思ったことを口にするからだ。
でも、いまはそんな遠慮のない言葉が、グサグサと胸に突き刺さる。
「面白くとも、なんともない……」
憮然としながら、自動ドアにぶつかりそうな勢いでビルを出た。
三段ほどの階段を下り、歩道に足を踏み出し……そして、見事に転んだ。