君がいれば、楽園
 わたしは、自分がしでかした恐ろしい失態に気が動転していたため、それらしい嘘を考える余裕がなかった。

「か、かぼちゃが……」

「かぼちゃ? 美味しいですよねぇ。ぼく、かぼちゃ好きなんですよー。それで、かぼちゃがどうかしたんですか?」

「じ、実家から大量に送られてきたから、に、煮物を作ろうと……」

「いーですねぇ、かぼちゃの煮物。塩味派ですか? 僕はオーソドックスに醤油みりん派ですけれど」

「う、うちも醤油みりん派です」

「ほくほく系ですか? しっとり系ですか?」

「え。し、しっとり系……」

「うわぁ、お腹空いてきたなぁ。で、かぼちゃの煮物がどうしたんですか?」

「か、かぼちゃを切ろうとしたら……包丁が、ゆゆゆ指に……」

「なるほど。かぼちゃは固いですからねぇ。切るコツを会得すれば楽々なんですけれど。あ、電子レンジでチンしてから切ると楽ですよ?」

「…………」

 イケメンで料理もできるなんて、この高スペックがっ! と心の中で叫ぶ。
 完全に八つ当たりだ。

「はい、できましたー!」

 パッと目を開けるとテープらしきものが巻かれた指が見えた。

 ――指が、ある……。

 ほっとするあまり、泣きそうになった。
 仕事ができるかどうかは微妙だが、とりあえず無事だったことに感謝する。

「今日は、お風呂入らないでくださいねー。あと、明日外来にいらしてください。麻酔は明日の朝までは効いていると思いますけれど、お酒は控えてくださいね。血流がよくなっちゃうと、めっちゃくちゃ痛くなりますよぉ? イタキモチイイ通り越して、悶絶レベル。それからぁ……」

 イケメン医者はデスクのPCに何やら打ち込みつつ、細々とした指示を連ねた。

 すでにアルコール摂取済みだとは言えず、沈黙でやり過ごす。

「もういいですよー」と言われ、「ありがとうございます……」と蚊の鳴くような声で呟いて、処置室をあとにした。
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