君がいれば、楽園

十二月二十四日 午後十一時の告白

 わたしが十歳、弟が五歳の時、両親が離婚した。

 わたしは母親に、弟は父親に引き取られた。

 父親は、離婚して間もなく県外へ転勤し、弟と顔を合わせるのは年に一、二回だけ。弟が高校を一年で中退してからは、ほとんど音信不通。
 二年前、なんの気なしにふらりと入ったこの店で弟を発見した時には、世間の狭さに驚いた。

 タクシーを降り、ドアにかかっている『Closed』のサインを無視してドアを開ける。

 もうそろそろ店を閉める時間のはずだが、カウンターにはひっそりと飲んでいる男性がひとり。 
 スウェット上下という何とも自由な寛ぎきった雰囲気から、常連と思われる。

「申し訳ありません、もう閉店……なんだ、姉ちゃんか」

 カウンターの中にいた弟は、わたしを見るなり、愛想笑いを仏頂面と取り替えた。

「なんだ、はないでしょ。わたしだって、お客よ!」

 足をひきずりながら、なんとかカウンターの椅子によじ登る。

 弟の店は、スナックと居酒屋を足して二で割り、メニューでバーっぽさを醸し出している。座った気にまるでなれない高い椅子の並ぶおしゃれな店でなくてよかったと心の底から思った。

「失礼しました。いらっしゃいまーせー」

 やる気の感じられない挨拶と共に温かいおしぼりを差し出した弟が、眉をひそめた。

「クリスマスイブに、ひとりで店に来るなんて、どうしたの? しかもその指と足。まさかのDV? 冬麻さんは無事だよね?」
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