君がいれば、楽園
「い、意外ってっ……」

「意外なんかじゃありませんよ。かわいらしいじゃないですか」

 容赦ない弟から、オッサン紳士が庇ってくれた。

 嬉しい。けれど、客観的に判断して、どう見てもかわいいはずがない。
 化粧はどろっどろに落ち、鼻水を盛大にすすっているのだから。

 そんなわたしに、「泣き落としなら、もうちょっと綺麗に泣く技を身に着けたら?」と言いつつ、弟が箱ティッシュを差し出す。XXセレブ。弟のくせに、女子力高い。

「四年か。ま、よく保ったほうなんじゃない? 姉ちゃんは飽きっぽいから、そろそろ潮時だったってことでしょ」

 憐れな姉に、弟は止めを刺しにきた。

「あ、飽きっぽいって……」

「冬麻さんから聞いたけど、ダイエットとか趣味とか続かないんだって? 本も、買っただけで読まずに積んでるだけのものが相当ある。押し入れには、仕組みを解明するためにバラバラにされた謎の便利グッズが、段ボールにひしめき合ってる。圧力鍋とかホーローの鍋とか料理道具は増えるのに、レパートリーは増えない。友達付き合いもほとんどせず、引きこもるのが常態。冬麻さんが連れ出さないと、アパートから半径百メートル以上遠くへは出かけない。それでも続いていたのって、世話をしてくれる冬麻さんといるのが楽だからで、愛情とはちがったんじゃないの?」

 弟に、何もかも知られていることに慄きながら否定する。

「そ、そんなこと……ない」

「でも、簡単に四年の付き合いを切れるくらいなんだからさ、たいして好きじゃなかったってことじゃないの?」

「そんなことない……」

「じゃあ、好きなの? 浮気されても、忘れられないくらい?」

 畳みかけるように問われ、つい意地になってぶんぶん首を振る。もちろん横に。

 悲しいし、ショックだけれど……まだ好きってことは、あり得ない。
 浮気じゃないかもしれないけれど、ほかの人を好きなのに、好きだなんて……。

 そんなはず、ない。
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