君がいれば、楽園
「好きでも嫌いでもないなら、無関心ってことか。うん、やっぱり飽きたんでしょ」

 決めつけられて、慌てて否定する。

「そ、そんなことないっ! あ、飽きてなんかないっ! す、捨てたのだって、わたしじゃないっ!」

「でも、別れようって言ったのは、姉ちゃんからなんでしょ? まさか、心にもないこと言ったわけ?」

 痛いところを突かれた。
 別れなくてはいけないとは思ったけれど、別れたいとは思っていなかった。

「い、言われるくらいなら、先に言ってしまおうかと……」 

「馬っ鹿じゃないの」

 スッパリバッサリ切られ、一度は項垂れかけたが、頑張って顔を上げ、反論した。

「だってっ! こ、怖かったんだもん」

「怖かった、だもん? だもんだって? 姉ちゃん、いくつ?」

「に、二十六です……」

「二十六にもなって、『だもん』なんて言ってんじゃねーよっ! ナニ、このめんどくさい女。冬麻さん、姉ちゃんのどこがよかったんだろ。さっぱり理解できない」

 弟が、額に手を当てて溜息を吐く。

「ひ、ひどい……」

 横にいたオッサン紳士が慰めてくれるのを期待したが「わたし、そろそろ……」と席を立とうとする。

「え? 帰るんですか? でも、まだ日付変わってないですよ? 夜はこれからですよね? ここ、わたし奢りますから……」

 必死に引き止めた。
 弟と二人っきりになったら、容赦なく罵倒されそうだ。

 オッサン紳士は少し困り顔になったものの、「ええと、トイレ。トイレに行くだけですから」と前言撤回した。

「ほんとに? ほんとーにトイレですか? あの、付いて行ってもいいですか?」

「えっ! いや、それはちょっと……」
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