君がいれば、楽園
「…………」

「…………」

 ドン引きしている弟とオッサン紳士に、慌てて言い訳する。

「だ、誰の匂いでもいいというわけじゃなくて、冬麻の匂い限定だからっ!」

「それでも、十分変態だけど。で、それから?」

「煙草をやめると言いながら、実はこっそり吸っていること」

「姉ちゃんの前じゃ吸わないようにしてるでしょ? 姉ちゃんが気管支弱いってわかって、ものすっごく性能のいい空気清浄機を買ってくれたんだよね? だったら、それくらいはさぁ……」

 好きにさせてあげれば、と言いかけた弟についむきになって反論してしまった。

「身体に悪いってわかっているのに、『吸ってもいいよ』なんて言えないでしょ! だって……ずっと一緒に長生きしたい。おじいちゃんになった冬麻を見たいから」

「ねぇ、これなんの茶番……」

 意味不明の弟の呟きに、オッサン紳士が被せて先を促す。

「それから?」

「うちにある観葉植物を女の人の名前で呼ぶのがイヤ。アイビーだけは、特別に許すけど」

「は? 冬麻さん、葉っぱに名前つけてんの? 笑えるんだけど。でも、何がイヤなの? 相手、葉っぱでしょ」

 オッサン紳士にわたしに出したものより数段色の濃いハイボールを渡しながら、弟が顔をしかめる。

「甘い声で話しかけたり、触ったり、撫で回したりするから、イヤ」

「でも、相手は葉っぱなんだよね?」

「葉っぱでも、イヤなのっ!」
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