君がいれば、楽園
 お気に入りのAVへの愛着を吹っ切ったのか、巨乳への執着を吹っ切ったのか。人生の大先輩である弟は立ち直りが早く、しかも、ためになることを言う。

「悪口で終わるの、後味わるいっしょ? 別れは、悲しくて辛いけれど、楽しくて優しい思い出までも全部なかったことにするのはもったいない。最後は、感謝して終わったほうがいいよ」
 
 ――確かに……辛い思い出よりも、楽しかった思い出のほうが断然多い……。

 ほかの人を好きになったからって、いままで冬麻がしてくれたことが全部消えてなくなるわけではない。

「冬麻は……いつも使わせてもらってるからって、お風呂掃除してくれる」

「ふうん?」

「わたしのシャツに、アイロンかけてくれる。間違ったところに線が入るのが許せないんだって」

「姉ちゃん、アイロンくらい、かけられるようになれよ……」

「夜中にコンビニスイーツ食べたくなったら、買ってきてくれる」

「冬麻さん、過保護すぎる……ってか、夜中にスイーツ食いたいって言うな」

「時々、おしゃれなカフェとかレストランに連れて行ってくれて、帰りはわたしに付き合って、PCショップに寄ってくれる」

「PCショップ……そこ、映画とかじゃダメなわけ?」

「映画館は、暗くてあったかくて横に冬麻がいて……安心して寝ちゃうからダメ」

「旅行に出かけたりしたくないの?」

「したくない。冬麻が一緒なら、どこにいても楽しい。家だと、人の目を気にせずにイチャイチャできるから、家にいるほうがいい」

「でも、冬麻さんがどっか行きたいって言ったら?」

「一緒に行く。冬麻に置いていかれると寂しい……」

「ナニコレ……ジワジワくるんだけど。コレ、ヤミツキになるでしょ」

 弟が、オッサン紳士に微笑みかける。

「はは、そうかも」

 オッサン紳士の低い笑い声が、彼を思わせた。
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