君がいれば、楽園
「あと……笑い声が好き。冬麻の笑い声を聞くと……なんか胸がくすぐったくなる」

「好きなのは、笑い声だけ?」

「手も好き。大きくて、優しくて、器用だから。でも……わたし以外のものを触っているのを見ると嫉妬する」

「葉っぱでも?」

「わたしといる時は、葉っぱでもイヤ。冬麻は……葉っぱのほうが大事だから」

 カウンターに置かれたオッサン紳士の手は、冬麻と同じように大きくて、日に焼けていて、器用そうだ。
 でも、さすがに触ったりはできないと思っていたら、その手で怪我をした手を優しく撫でられた。

「心外だな。葉っぱより、夏加を大事にしているのに」

 びっくりして顔を上げたわたしは、さらに驚いた。

「へ? 冬麻?」

 そこにいたのは、オッサン紳士ではなく……別れたはずの彼だった。

「……本物?」

 手を伸ばして顔や頭に触れ、実体を確かめてしまう。

「本物」

 撫で回すわたしの手を捕獲する冬麻に、弟が詫びる。

「すいません、冬麻さん。こんな夜中にお騒がせして。お聞きになったとおり、姉ちゃんは冬麻さんが好きで好きでしようがないんで、これからもよろしくお願いします」

「へ? あの……よろしくって……」 

「帰るぞ、夏加。お勘定……」

 戸惑っているうちに、背負われた。

「いいですから! 姉ちゃんに出したの、ただの炭酸水なんで。正月、俺たちも母さんのところに顔を出します。詳しい話は、その時に」

「お義母さんとお義父さんには、年明けに顔を出すからと伝えておいて」

「了解です! 実家帰る前に、冬麻さんとちゃんと仲直りしろよ? 姉ちゃん」
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