君がいれば、楽園
「え?」

「あんなこと言われたら、その気になる」

 冬麻は、わたしをソファーから引きずり降ろし、膝の上に乗せるとキスをした。

「春陽が痛くなったら、やめるから……シテもいい?」

 そんなことを言われたら、イヤとは言えないし、言いたくもない。
 
 わたしが頷くと、唇を重ねるだけのキスは、深く、淫らなものになった。

 半分服を着たままで、わたしの捻った足や傷ついた指を気遣いながら抱くのは面倒くさいだろうに、彼は「不自由なのが逆に興奮する」と言う。

 肌を這う手の温もりが心地よく、葉っぱたちもこんな気持ちなのかな、と思う。
 でも、欲張りなわたしには、足りない。
 
 もっと深く、繋がりたい。
 痛くても我慢できる。

 冬麻から与えられるものならば、きっと痛みすら悦びに変わる。

「冬麻……」

 彼は、わたしの望みを知っているくせに、わざとはぐらかす。

「もうすぐ、同じ冬麻になるんだから……そろそろ呼び方、改めて」

 意地悪く焦らし、取引を持ちかける彼を睨むと甘い声で囁かれた。

「呼んでみて」

「……秋晴(しゅうせい)

 わたしを見つめる彼の顔に、笑みが浮かぶ。
 愛おしい、と言っている。

 お互いの欲望を満たし、緑の中で気怠い幸せに包まれながら、抱き合ったまま冷たい床に転がり、火照った身体を冷やす。

「春陽。ほんとうに、住むのはどこでもいいの? 庭は、別に借りることもできるし、もし俺に気を遣っているなら……」

「秋晴が帰ってきてくれるなら、どこにいようと幸せだから」

「春陽が待っていてくれるなら……」

 わたしは、彼の唇をくちづけで塞いだ。



 彼がいるだけで、どんな場所もわたしにとって楽園になる。

 わたしは、楽園で生きる。

 彼が愛するものたちと一緒に。

 彼らがいつか、わたしたち二人を覆い尽くすまで――。
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