【女の事件】黒煙のレクイエム
第17話
それから4日後のことであった。
ごんぞうの家を飛び出したアタシは、京都の舞妓はん時代に仲良しだった知人からの紹介で尼ヶ崎市西大物(だいもつ)町にあるコナミスポーツクラブのアメニティ(水回り清掃)の仕事を始めることにした。
それでもまだ生活費が足りひんけん、東大物町にあるファミマのバイトと掛け持ちをしておカネを稼いで、一定の金額がたまったら違う町に移り住むことを決意した。
ごんぞうと義母は『こずえさんはハナダイドロボーをして置き屋の姐さんにめいわくをかけていたから、家のおカネまでも盗むつもりなのかしらねぇ!!』とか『オレがほしいお嫁さんとは全然違う!!何でオレだけドロボー女しかいないのかよ!?』とか『弟が自立できん原因を作ったのに悪いことをしたとは思っていないようだな!!』などとどぎつい言葉をアタシに浴びせた上に、義母は『複数人の男と平気で寝ていたから…うちのテイシュやけいぞうやしょうぞうに色目を使う気なのかしらね!!』と言うと、ごんぞうは『オドレは汚い女だ!!クソ以下だ!!』ときつい声でボロクソに言うたので、アタシはもうがまんの限界を越えていた。
たとえごんぞうがアタシにあやまりたいと言うても、アタシは一切受け付けないと怒っていた。
アタシのはらわたは思い切り煮えくり返っていたので、もし今度ごんぞうと会ったら、平手打ちでごんぞうのよこっ面をはりまわしたろか(思い切り叩くわよ)!!…と言う気持ちになっていたので、ごんぞうとは仲直りをしないことを決意した。
ごんぞうは、安月給などの待遇面が悪いことを理由に自己都合でヒョウゴウェルネスダイレクトの工場をやめた後、深江さんに『条件がいい職場じゃないと再就職をしないからな!!』と言うて、せっかく紹介をしていただいた事業所への再就職を断り続けていた。
困り果てた深江さんは、ごんぞうのわがままをなだめるために、ごんぞうの希望に近い職場である川西市加茂6丁目の製造工場があるからそこへ就職をしなさいとごんぞうに提示をした。
自宅からも通える距離内で、ヒョウゴウェルネスの時よりも少しだけどお給料が高いことと中小企業の福利厚生の団体に入っているので、旅行やスポーツ観戦などの行事もあると言うていたので、ごんぞうは転職先の製造工場に行くことを決めた。
ごんぞうの転職先の製造工場は、大阪に本社がある大手食品会社からレトルトパウチカレーの製造の委託を受けている工場で深江さんのおじさんが経営している工場である。
ごんぞうは、8月1日から転職先の製造工場で働くことにした。
与えられたお仕事は、段ボールの折りたたみと段ボール箱に製品を箱詰めにして行く仕事であった。
8月3日のことであった。
ごんぞうが勤務をしている製造工場にて…
ごんぞうたちがいる仕事場では、従業員さんたちが段ボールの折りたたみと出来上がりの製品を段ボールに箱詰めをして行く仕事をしていた。
昼休みを告げるサイレンが鳴った。
従業員さんたちは、休憩室に行って注文をしたお弁当を青いキャリーの中から取り出した後、空いている席に座ってお昼を食べていた。
ごんぞうはお弁当を取ろうと思ったが、いらないと言う表情をした後、空いている席にひとりぼっちで座って大きくため息をついていた。
この時、深江さんがお弁当を持って休憩室にやって来た。
ごんぞうがお弁当を取っていないので、深江さんは心配そうな表情でごんぞうにこう言うた。
「ごんぞうさん。」
「何なのだよあんたは…オレをひとりぼっちにさせてくれよ!!」
「どうしたのだね一体…私はごんぞうさんがひとりぼっちでお昼ごはんを食べているのはつらいだろうなと思って心配になっているのだよ…こずえさんが家出をしたのでつらいだろうなと思っているのだよ…」
「そんなことをしてどうしたいのだよ!?」
「どうしたいって…こずえさんと離婚をした後の人生設計について話し合いをしたいのだよ。」
「何だよ人生設計についてって…ファイナンシャルプランナーかよあんたは!!」
「ごんぞうさん…困ったな…」
深江さんは、ごんぞうさんが座っている向かい側の席に座った後、お弁当の箱のふたをあけて、おはしできんぴらごぼうをつまんで、大きな口を空けて食べながらごんぞうにこう言うた。
「ごんぞうさん…お弁当はどうしたのかな?食べないのかな?」
「いらねーんだよ…」
「いらない…どうしてなんだね?せっかくおいしいオカズがたくさん入っているのだよ…きょうのお弁当の中には…ごんぞうさんの大好きなトントロの串カツが入っているのだよ。」
「いらねーものはいらねーんだよ!!しつこいんだよ!!」
「だけど…串カツ一本だけでも食べたらどうかな?」
「しつこいんだよあんたはよ!!」
ごんぞうは、より強い口調で深江さんにしつこいんだよと怒鳴ってからこう言うた。
「深江さん!!オレにハナダイドロボーの女と結婚しろと言ったのはあんたなのだからな…どーしてくれるのだよ!?」
「ハナダイドロボーの女って…こずえさんのことをドロボー女だと思っているのかな…」
「ああ、そうだよ…オレだってさ…本気になれば好きなカノジョができていたのだよ…それなのに…あんたが待っていればお嫁さんは来てくれるからと言って待て待て待て待て待て待て…何だよあんたは!!悪いことをしたと思っていないのかよ!?」
「だから、ごんぞうさんが結婚したいときに結婚をすることができなかったことについては悪いことをしたと思っているよ…ごんぞうさんが恋人がほしい時期に待ったをかけたことについては悪かったよ…」
「悪かったと思うのだったら心のそこからあやまれよ!!」
「あやまっているよ…あの時はごんぞうさんのおとーさんの借金を完済すまでは待ってくれと言うて、お給料の一部を天引きして、天引きした分を借金返済にあてたことについてはあやまっているのだよ…」
「(冷めた声で…)オヤジが酒をのむからオレの婚期が薄れてしまったと言うことを悪く思っていないみたいだね…」
「ごんぞうさん…結婚をすることに待ったをかけた理由は他にもあったのだよ。」
「それはどういう意味なんや!?」
「どういう意味なんやって、ごんぞうさんに新しいお仕事を教えてあげようかなと思っていたからだよ。」
「そんなことをしてあんたは何がしたいと言うのだよ!?」
「何がしたいって…お給料をあげるためなんだよ…ごんぞうさんに任せるお仕事が増えたらその分のお給料が増えるのだよ。」
「要は、お給料が少ない人はお嫁さんが来てくれないと言いたいのだろ!!オドレはどこのどこまでふざけているのだよ!!従業員さんたちに支払うお給料をピンはねして…その分で知人のやくざ連中とのみくいする費用に使っていたからお給料が上がらないのだよ!!だからあの時オレはヒョウゴウエルネスダイレクトの工場をやめたのだよ!!その事が分からないのかボケ!!」
「ごんぞうさん!!」
ごんぞうは深江さんにチッと舌打ちをした後、『チンピラ専務!!』となじって席から立ったあと、休憩室から出て行った。
その後、休憩室の外でたばこを吸っていた男性従業員さんに対して『オラN山!!虫ケラ以下!!』と思い切り怒鳴りつけたあと大ゲンカを起こしてしまった。
外にいた数人の従業員さんたちが止めに入ったが、ごんぞうは『オドレらかかってこい!!』と怒鳴った後、ドカバキの大ゲンカを起こしてしまった。
その一方で、ごんぞうの家を飛び出して女ひとりで生きて行くことを決めたアタシは、ごんぞうのことを許せなくなっていた。
ごんぞうと義母は『ハナダイドロボーだ!!』とか『他の男と平気で寝る女だ!!』とか『クソ以下のゲス女だ!!』などとアタシをボロクソに言うたので、もう怒りが頂点に到達していた。
怒りが頂点に到達したので、ごんぞうの家どころか川西市で暮らして行くこともできなくなった。
だから、一定の金額がたまったらよその街へ逃げることにした。
高松にある義母カタの家へ帰ることもできないので、アタシは東日本大震災の震災孤児として生きて行くことを決意をした。
その日の夜のことであった。
アタシがバイトをしている東大物町のファミマに深江さんがやって来た。
深江さんは、アタシとごんぞうが離婚をしたことを聞いて心配になっていたので今後どうしたいのかを聞いていた。
アタシは、ごんぞうの家とは仲直りをしないと怒っていた。
アタシは、駐車場にあるゴミ箱の整理をしながら深江さんにこう言うた。
「深江さん!!アタシはね!!ごんぞうのことについては思い切りキレているのよ!!アタシのことをハナダイドロボーだとか他の男と平気で寝るようなクソ以下の女だなどとなじっておいて…アタシと離婚をしたら、あーせいせいした~…と言うてはるのよ!!アタシは、ごんぞうの家とは仲直りせえへんけん。アタシはね今バイト中なのよ!!用がないのにフラりと来んといてや!!」
「こずえさん…こっちはものすごく困っているのだよ…こずえさんが家出をしたのでごんぞうさんのおとーさんとおかーさんがゴハンを作ってくれる人がいない言うて困っているのだよ…」
「何なのよあんた一体!!それってアタシに対する当て付けなのかしら!!アタシにゴハンを作ってほしいから川西に帰れと言うわけなのね!!」
「こずえさん…本当にごんぞうさんのおとーさんとおかーさんが困っているのだよ…」
「何を寝たボケたことをいよんかしら!!ごんぞうと義母は、アタシのことをクソ以下の女だと言うてボロメタに言うたのよ!!そんなことをしておいて、急に事情が変わったけん困る困るだなんてホンマにふざけとるわ!!」
アタシは、ひと間隔を空けてから深江さんにこう言うた。
「深江さん、アタシね、一定の金額がたまったらねよその街へ行くことにしたから。ぶっちゃけた話だけど、アタシは結婚に向いていないやさぐれ女なのよ!!深江さん!!結婚ってなんのためにするモノかしら!!アタシは、新しい恋を始めることも、再婚することも一切考えてへんけん!!」
「こずえさん…」
「何なのよあんたは一体!!夫婦ってガマンをするための夫婦なのかしら!?」
「そんなことはひとことも言うてへんよぉ…」
「だったら!!アタシにはお見合いの話はいれんといてくれるかしら!!アタシの人生はアタシの人生なのよ!!アタシの人生を勝手に決めんといてくれるかしら!!」
「分かっているよ…決めつけてはいないよ…」
「せやったら自由にさせてよ!!」
「分かっているよぉ…」
「分かっていたらおわりにしいや!!」
「分かっているよぉ…だけどね…こずえさんは震災でおとーさんとおかーさんを亡くしている上に津波で家を焼かれているので、助けてあげたいのだよぅ。」
「何なのかしらあんたは一体!!それじゃあ、あんたは『震災孤児はひとりで生きて行く力がない』と言いたいのかしら!!」
「そんなことは言っていないよぉ…」
「あのね!!アタシは20歳よ!!アタシの人生を決めつけないでと言うたら決めつけないでよ!!」
「決めつけてはいないよぉ…」
「決めつけていないのなら何なのかしら一体!!」
「こずえさんを助けてあげたいのだよ。」
「だから!!あんたはどうやってアタシを助けようとしてはるのかしら!?あんたはアタシにどうしてほしいと言いたいのよ!?」
「どうしてほしいって…幸せになってほしいのだよぅ…」
「何なのよあんたは一体!!あんたはいつからアタシをストーカーするようになったのかしら!?」
「ストーカーなんかしていないよぅ…ぼくはこずえさんを助けてあげたいのだよぉ…」
「どのようにして助けたいのか言うてみなさいよ!!言うとくけど、結婚なんて言わんといてよね…アタシは、結婚するのは死んでもイヤだからね!!」
「結婚がイヤと言うのなら、他にどんな方法があると言うのかな…結婚以外に幸せになる方法はあるのかなぁ。」
「何なのよあんたは!!アタシがああ言うたらこう言い…反論ばかりせんといてや!!」
「こずえさん…私にはね…娘がいるのだよ…もうすぐ36歳になる娘がいるのだよ…」
「せやから、あんたはなにが言いたいのかしら!?」
「私の娘はね…もうすぐ36歳になるのだよ…お見合いを何回もしているのに全くまとまらないのだよぉ。」
「フン、そんなんしらんわよ!!お見合いがまとまらないまとまらないと言うて、あんたがオタオタオタオタおたついてばかりいるからお見合いを断られるのでしょ…」
「こずえさん、36歳を過ぎたら結婚相手の条件がさらに悪くなってしまうのだよ。」
「『36歳を過ぎたら条件がさらに悪くなってしまうのだよ…』って…それどう言う意味なのかしら!!娘の花嫁衣装姿が見たいのに見ることができなくなると言いたいのかしら!?」
「見たいよ…娘の花嫁衣装姿が見たいのに見られない父親の気持ちが分からないのかな?」
「ええその通りよ!!あんたね!!アタシは思い切りキレているのよ!!さっきから聞いていたら何なのかしら一体!!深江さん!!アタシは今バイト中ですごく忙しいのよ!!用がないのだったら帰んなさいよ!!」
「帰るよぉ…」
「店に居座るのだったら店長を呼ぶわよ!!」
「居座る気はないよぉ…」
「だったら帰ってよ!!」
「このままでは帰ることが出来ないのだよ…」
「はぐいたらしい(あつかましい)わねあんたは!!帰ってよと言うてはるのに店に居座る気なのね!!」
「分かっているよぉ…だけどね…このままでは帰ることが出来ないのだよ…」
「アタシにどうしてほしいと言うわけなのよ!?いっておくけれど、ごんぞうと話し合いをせいと言われても話し合いは一切せえへんけん!!あんたはそのように言いたいのでしょ!?」
「こずえさん…どうしてもごんぞうさんと話し合いはできないのかな…ごんぞうさんはこずえさんにあやまりたいと言うてはるのだよ…」
「ふざけたことを言わんといてくれるかしら!!あんたね!!アタシはあんたがごんぞうの家の家族のカタを持ってアタシにストーカーをしたのだから、こらえへんけん!!あんたね!!アタシが帰ってよと言っているのに帰ろうとしないから、本部の人…ううん、アタシの知人のやくざ連中を呼ぶから…神戸にいる知人に今から電話しに行くから、動かないで!!」
思い切りキレてしまったアタシは、奥の部屋へ逃げ込んだあと、神戸にいる知人に電話をして、深江さんがストーカーしていることをチクっていた。
深江さんは、やくざ連中に殺されるかもしれないとおびえていたので、その場から逃げだした。
アタシは、ごんぞうの家に対してより激しいうらみをつのらせていた。
ごんぞうの家を飛び出したアタシは、京都の舞妓はん時代に仲良しだった知人からの紹介で尼ヶ崎市西大物(だいもつ)町にあるコナミスポーツクラブのアメニティ(水回り清掃)の仕事を始めることにした。
それでもまだ生活費が足りひんけん、東大物町にあるファミマのバイトと掛け持ちをしておカネを稼いで、一定の金額がたまったら違う町に移り住むことを決意した。
ごんぞうと義母は『こずえさんはハナダイドロボーをして置き屋の姐さんにめいわくをかけていたから、家のおカネまでも盗むつもりなのかしらねぇ!!』とか『オレがほしいお嫁さんとは全然違う!!何でオレだけドロボー女しかいないのかよ!?』とか『弟が自立できん原因を作ったのに悪いことをしたとは思っていないようだな!!』などとどぎつい言葉をアタシに浴びせた上に、義母は『複数人の男と平気で寝ていたから…うちのテイシュやけいぞうやしょうぞうに色目を使う気なのかしらね!!』と言うと、ごんぞうは『オドレは汚い女だ!!クソ以下だ!!』ときつい声でボロクソに言うたので、アタシはもうがまんの限界を越えていた。
たとえごんぞうがアタシにあやまりたいと言うても、アタシは一切受け付けないと怒っていた。
アタシのはらわたは思い切り煮えくり返っていたので、もし今度ごんぞうと会ったら、平手打ちでごんぞうのよこっ面をはりまわしたろか(思い切り叩くわよ)!!…と言う気持ちになっていたので、ごんぞうとは仲直りをしないことを決意した。
ごんぞうは、安月給などの待遇面が悪いことを理由に自己都合でヒョウゴウェルネスダイレクトの工場をやめた後、深江さんに『条件がいい職場じゃないと再就職をしないからな!!』と言うて、せっかく紹介をしていただいた事業所への再就職を断り続けていた。
困り果てた深江さんは、ごんぞうのわがままをなだめるために、ごんぞうの希望に近い職場である川西市加茂6丁目の製造工場があるからそこへ就職をしなさいとごんぞうに提示をした。
自宅からも通える距離内で、ヒョウゴウェルネスの時よりも少しだけどお給料が高いことと中小企業の福利厚生の団体に入っているので、旅行やスポーツ観戦などの行事もあると言うていたので、ごんぞうは転職先の製造工場に行くことを決めた。
ごんぞうの転職先の製造工場は、大阪に本社がある大手食品会社からレトルトパウチカレーの製造の委託を受けている工場で深江さんのおじさんが経営している工場である。
ごんぞうは、8月1日から転職先の製造工場で働くことにした。
与えられたお仕事は、段ボールの折りたたみと段ボール箱に製品を箱詰めにして行く仕事であった。
8月3日のことであった。
ごんぞうが勤務をしている製造工場にて…
ごんぞうたちがいる仕事場では、従業員さんたちが段ボールの折りたたみと出来上がりの製品を段ボールに箱詰めをして行く仕事をしていた。
昼休みを告げるサイレンが鳴った。
従業員さんたちは、休憩室に行って注文をしたお弁当を青いキャリーの中から取り出した後、空いている席に座ってお昼を食べていた。
ごんぞうはお弁当を取ろうと思ったが、いらないと言う表情をした後、空いている席にひとりぼっちで座って大きくため息をついていた。
この時、深江さんがお弁当を持って休憩室にやって来た。
ごんぞうがお弁当を取っていないので、深江さんは心配そうな表情でごんぞうにこう言うた。
「ごんぞうさん。」
「何なのだよあんたは…オレをひとりぼっちにさせてくれよ!!」
「どうしたのだね一体…私はごんぞうさんがひとりぼっちでお昼ごはんを食べているのはつらいだろうなと思って心配になっているのだよ…こずえさんが家出をしたのでつらいだろうなと思っているのだよ…」
「そんなことをしてどうしたいのだよ!?」
「どうしたいって…こずえさんと離婚をした後の人生設計について話し合いをしたいのだよ。」
「何だよ人生設計についてって…ファイナンシャルプランナーかよあんたは!!」
「ごんぞうさん…困ったな…」
深江さんは、ごんぞうさんが座っている向かい側の席に座った後、お弁当の箱のふたをあけて、おはしできんぴらごぼうをつまんで、大きな口を空けて食べながらごんぞうにこう言うた。
「ごんぞうさん…お弁当はどうしたのかな?食べないのかな?」
「いらねーんだよ…」
「いらない…どうしてなんだね?せっかくおいしいオカズがたくさん入っているのだよ…きょうのお弁当の中には…ごんぞうさんの大好きなトントロの串カツが入っているのだよ。」
「いらねーものはいらねーんだよ!!しつこいんだよ!!」
「だけど…串カツ一本だけでも食べたらどうかな?」
「しつこいんだよあんたはよ!!」
ごんぞうは、より強い口調で深江さんにしつこいんだよと怒鳴ってからこう言うた。
「深江さん!!オレにハナダイドロボーの女と結婚しろと言ったのはあんたなのだからな…どーしてくれるのだよ!?」
「ハナダイドロボーの女って…こずえさんのことをドロボー女だと思っているのかな…」
「ああ、そうだよ…オレだってさ…本気になれば好きなカノジョができていたのだよ…それなのに…あんたが待っていればお嫁さんは来てくれるからと言って待て待て待て待て待て待て…何だよあんたは!!悪いことをしたと思っていないのかよ!?」
「だから、ごんぞうさんが結婚したいときに結婚をすることができなかったことについては悪いことをしたと思っているよ…ごんぞうさんが恋人がほしい時期に待ったをかけたことについては悪かったよ…」
「悪かったと思うのだったら心のそこからあやまれよ!!」
「あやまっているよ…あの時はごんぞうさんのおとーさんの借金を完済すまでは待ってくれと言うて、お給料の一部を天引きして、天引きした分を借金返済にあてたことについてはあやまっているのだよ…」
「(冷めた声で…)オヤジが酒をのむからオレの婚期が薄れてしまったと言うことを悪く思っていないみたいだね…」
「ごんぞうさん…結婚をすることに待ったをかけた理由は他にもあったのだよ。」
「それはどういう意味なんや!?」
「どういう意味なんやって、ごんぞうさんに新しいお仕事を教えてあげようかなと思っていたからだよ。」
「そんなことをしてあんたは何がしたいと言うのだよ!?」
「何がしたいって…お給料をあげるためなんだよ…ごんぞうさんに任せるお仕事が増えたらその分のお給料が増えるのだよ。」
「要は、お給料が少ない人はお嫁さんが来てくれないと言いたいのだろ!!オドレはどこのどこまでふざけているのだよ!!従業員さんたちに支払うお給料をピンはねして…その分で知人のやくざ連中とのみくいする費用に使っていたからお給料が上がらないのだよ!!だからあの時オレはヒョウゴウエルネスダイレクトの工場をやめたのだよ!!その事が分からないのかボケ!!」
「ごんぞうさん!!」
ごんぞうは深江さんにチッと舌打ちをした後、『チンピラ専務!!』となじって席から立ったあと、休憩室から出て行った。
その後、休憩室の外でたばこを吸っていた男性従業員さんに対して『オラN山!!虫ケラ以下!!』と思い切り怒鳴りつけたあと大ゲンカを起こしてしまった。
外にいた数人の従業員さんたちが止めに入ったが、ごんぞうは『オドレらかかってこい!!』と怒鳴った後、ドカバキの大ゲンカを起こしてしまった。
その一方で、ごんぞうの家を飛び出して女ひとりで生きて行くことを決めたアタシは、ごんぞうのことを許せなくなっていた。
ごんぞうと義母は『ハナダイドロボーだ!!』とか『他の男と平気で寝る女だ!!』とか『クソ以下のゲス女だ!!』などとアタシをボロクソに言うたので、もう怒りが頂点に到達していた。
怒りが頂点に到達したので、ごんぞうの家どころか川西市で暮らして行くこともできなくなった。
だから、一定の金額がたまったらよその街へ逃げることにした。
高松にある義母カタの家へ帰ることもできないので、アタシは東日本大震災の震災孤児として生きて行くことを決意をした。
その日の夜のことであった。
アタシがバイトをしている東大物町のファミマに深江さんがやって来た。
深江さんは、アタシとごんぞうが離婚をしたことを聞いて心配になっていたので今後どうしたいのかを聞いていた。
アタシは、ごんぞうの家とは仲直りをしないと怒っていた。
アタシは、駐車場にあるゴミ箱の整理をしながら深江さんにこう言うた。
「深江さん!!アタシはね!!ごんぞうのことについては思い切りキレているのよ!!アタシのことをハナダイドロボーだとか他の男と平気で寝るようなクソ以下の女だなどとなじっておいて…アタシと離婚をしたら、あーせいせいした~…と言うてはるのよ!!アタシは、ごんぞうの家とは仲直りせえへんけん。アタシはね今バイト中なのよ!!用がないのにフラりと来んといてや!!」
「こずえさん…こっちはものすごく困っているのだよ…こずえさんが家出をしたのでごんぞうさんのおとーさんとおかーさんがゴハンを作ってくれる人がいない言うて困っているのだよ…」
「何なのよあんた一体!!それってアタシに対する当て付けなのかしら!!アタシにゴハンを作ってほしいから川西に帰れと言うわけなのね!!」
「こずえさん…本当にごんぞうさんのおとーさんとおかーさんが困っているのだよ…」
「何を寝たボケたことをいよんかしら!!ごんぞうと義母は、アタシのことをクソ以下の女だと言うてボロメタに言うたのよ!!そんなことをしておいて、急に事情が変わったけん困る困るだなんてホンマにふざけとるわ!!」
アタシは、ひと間隔を空けてから深江さんにこう言うた。
「深江さん、アタシね、一定の金額がたまったらねよその街へ行くことにしたから。ぶっちゃけた話だけど、アタシは結婚に向いていないやさぐれ女なのよ!!深江さん!!結婚ってなんのためにするモノかしら!!アタシは、新しい恋を始めることも、再婚することも一切考えてへんけん!!」
「こずえさん…」
「何なのよあんたは一体!!夫婦ってガマンをするための夫婦なのかしら!?」
「そんなことはひとことも言うてへんよぉ…」
「だったら!!アタシにはお見合いの話はいれんといてくれるかしら!!アタシの人生はアタシの人生なのよ!!アタシの人生を勝手に決めんといてくれるかしら!!」
「分かっているよ…決めつけてはいないよ…」
「せやったら自由にさせてよ!!」
「分かっているよぉ…」
「分かっていたらおわりにしいや!!」
「分かっているよぉ…だけどね…こずえさんは震災でおとーさんとおかーさんを亡くしている上に津波で家を焼かれているので、助けてあげたいのだよぅ。」
「何なのかしらあんたは一体!!それじゃあ、あんたは『震災孤児はひとりで生きて行く力がない』と言いたいのかしら!!」
「そんなことは言っていないよぉ…」
「あのね!!アタシは20歳よ!!アタシの人生を決めつけないでと言うたら決めつけないでよ!!」
「決めつけてはいないよぉ…」
「決めつけていないのなら何なのかしら一体!!」
「こずえさんを助けてあげたいのだよ。」
「だから!!あんたはどうやってアタシを助けようとしてはるのかしら!?あんたはアタシにどうしてほしいと言いたいのよ!?」
「どうしてほしいって…幸せになってほしいのだよぅ…」
「何なのよあんたは一体!!あんたはいつからアタシをストーカーするようになったのかしら!?」
「ストーカーなんかしていないよぅ…ぼくはこずえさんを助けてあげたいのだよぉ…」
「どのようにして助けたいのか言うてみなさいよ!!言うとくけど、結婚なんて言わんといてよね…アタシは、結婚するのは死んでもイヤだからね!!」
「結婚がイヤと言うのなら、他にどんな方法があると言うのかな…結婚以外に幸せになる方法はあるのかなぁ。」
「何なのよあんたは!!アタシがああ言うたらこう言い…反論ばかりせんといてや!!」
「こずえさん…私にはね…娘がいるのだよ…もうすぐ36歳になる娘がいるのだよ…」
「せやから、あんたはなにが言いたいのかしら!?」
「私の娘はね…もうすぐ36歳になるのだよ…お見合いを何回もしているのに全くまとまらないのだよぉ。」
「フン、そんなんしらんわよ!!お見合いがまとまらないまとまらないと言うて、あんたがオタオタオタオタおたついてばかりいるからお見合いを断られるのでしょ…」
「こずえさん、36歳を過ぎたら結婚相手の条件がさらに悪くなってしまうのだよ。」
「『36歳を過ぎたら条件がさらに悪くなってしまうのだよ…』って…それどう言う意味なのかしら!!娘の花嫁衣装姿が見たいのに見ることができなくなると言いたいのかしら!?」
「見たいよ…娘の花嫁衣装姿が見たいのに見られない父親の気持ちが分からないのかな?」
「ええその通りよ!!あんたね!!アタシは思い切りキレているのよ!!さっきから聞いていたら何なのかしら一体!!深江さん!!アタシは今バイト中ですごく忙しいのよ!!用がないのだったら帰んなさいよ!!」
「帰るよぉ…」
「店に居座るのだったら店長を呼ぶわよ!!」
「居座る気はないよぉ…」
「だったら帰ってよ!!」
「このままでは帰ることが出来ないのだよ…」
「はぐいたらしい(あつかましい)わねあんたは!!帰ってよと言うてはるのに店に居座る気なのね!!」
「分かっているよぉ…だけどね…このままでは帰ることが出来ないのだよ…」
「アタシにどうしてほしいと言うわけなのよ!?いっておくけれど、ごんぞうと話し合いをせいと言われても話し合いは一切せえへんけん!!あんたはそのように言いたいのでしょ!?」
「こずえさん…どうしてもごんぞうさんと話し合いはできないのかな…ごんぞうさんはこずえさんにあやまりたいと言うてはるのだよ…」
「ふざけたことを言わんといてくれるかしら!!あんたね!!アタシはあんたがごんぞうの家の家族のカタを持ってアタシにストーカーをしたのだから、こらえへんけん!!あんたね!!アタシが帰ってよと言っているのに帰ろうとしないから、本部の人…ううん、アタシの知人のやくざ連中を呼ぶから…神戸にいる知人に今から電話しに行くから、動かないで!!」
思い切りキレてしまったアタシは、奥の部屋へ逃げ込んだあと、神戸にいる知人に電話をして、深江さんがストーカーしていることをチクっていた。
深江さんは、やくざ連中に殺されるかもしれないとおびえていたので、その場から逃げだした。
アタシは、ごんぞうの家に対してより激しいうらみをつのらせていた。