【女の事件】黒煙のレクイエム

第56話

８月27日のことであった。

この日アタシは、日中ガソリンスタンドでバイトをしていた。

時は、昼の２時過ぎのことであった。

アタシは、交代休みでお昼ごはんを食べに行って休憩をとった後、ガソリンスタンドに帰ってきて仕事に取りかかろうとしていた時に、店長さんがアタシにお客さまが来ていると言うたので、お客さまに会いに行った。

アタシに会いに来ていたお客さまは、こともあろうにサナだった。

サナは、白のワンピに白でむらさきのリボンがついている帽子をかぶった姿でアタシのところにやって来た。

サナは、アタシにひろゆきが行方をくらませた…ひろゆきが出入りをしていたナイトクラブで働いているオーストラリア人のホステスに手を出したことなどをアタシに話したが、途中で言葉がつまったけん、くすんくすんと泣いていた。

「ちょっとサナさん…泣いていたら分からないわよ…ねえ…一体どうしたと言いたいのよ？」
「くすんくすん…アタシ…どうすればいいのよ…アタシ…赤ちゃん…産みたくない…産みたくない…くすんくすん…」
「赤ちゃん…ねえ…赤ちゃんって言ったわね。赤ちゃんのパパは一体誰なのよ？」
「くすんくすん…ひろゆきの赤ちゃんなの…胎内に…５ヶ月…」
「５ヶ月って…ちょっと…もしかして、５ヶ月前からあんたとひろゆきが会っていたと言うこと…ちょっと…どう言うことなのよ一体…もしかして…中絶ができんなったけん困ってはると言うことなの!?５ヶ月になるまで、どうして放置していたのよ!?」
「だって…くすんくすん…くすんくすん…」

サナがくすんくすんと泣いてばかりいたので、詳しいことが聞くことができない。

そこへ、アタシのスマホの電話の着信音が鳴ったので、スマホを手に取った。

電話は、つばきちゃんからであった。

「もしもし…つばきちゃん…どしたんで…えっ？それホンマなん…Ｔ岡の女々が…やくざの事務所に乗り込んで…乱闘事件を起こした…ねえ…女々はどないなったん…とかれふでうたれた…とかれふ…とかれふ…エーーーッ!?女々がやくざのチャカでドタマぶち抜かれた!?もしもし!!つばきちゃん、それホンマにホンマなん!?ねえつばきちゃん!!ちょっと待って…サナさん!!どこへ行くのよ!!」

アタシは、サナが敷地内にある自動車の整備工場に向かって行ったので、急いで追いかけて行った。

自動車の整備工場にて…

サナは、エンジンオイルを頭から思い切りかぶった後、持っていたライターを出して火をつけようとしていた。

「サナさん!!やめて!!お願いだからやめて!!」
「こずえさん!!アタシ…もうダメなの!!だから…火だるまになって赤ちゃんを…」
「そんなことをしたらあんたも死んじゃうわよ!!やめてぇ!!」
「イヤ!!アタシ!!Ｔ岡さんが亡くなった上にひろゆきに犯されたの…アタシ…もうイヤ!!」
「危ないからやめなよ!!ライターをこっちによこしなさい!!サナさん!!」

サナはライターを捨てた後、大きめのスパナを手に取って胎内の赤ちゃんを思い切り叩いていたので、アタシはとっさになってサナを止めた。

「やめなよ!!やめなよ!!」
「離して!!離して!!」
「そんなことをしていたら胎内の赤ちゃんが死んじゃうからやめなよ!!」
「浮気者のひろゆきの赤ちゃんを産みたくないの!!」
「やめなよ!!本当に赤ちゃんが死んじゃうよ!!」

サナは、アタシが必死になって止めているのに関わらず、ひどく暴れていた。

その時であった。

白のワンピが真っ赤な血液で染まっていたので、サナは頭がサクラン状態におちいっていた。

「いっ…イヤ…イヤァァァァァァ!!」

サナは、激しい叫び声を上げた後、その場に座り込んでしまった。

サナは、救急車で千種区内の救急病院に運ばれたが、胎児は非常に危険な状態におちいっていた。