【女の事件】黒煙のレクイエム
第60話
2029年7月15日の夕方6時過ぎのことであった。

事件は、ひろつぐの家の食卓にて発生した。

ひろつぐの兄・ひろゆきは、サナが作った晩ごはんをひろつぐが食べようとしていたのを『サナが作ってくれた手料理を勝手に食べるな!!』と言ってから『こずえさんに晩ごはんを作ってもらえ!!』と怒った。

その時に、バイトを終えてクタクタになって帰ってきましたアタシが食卓に居たので、アタシは思い切りキレてしまった。

「キーッ!!何なのよひろゆきは!!もういっぺん言ってみなさいよ!!アタシのことを目玉焼きも作れない嫁さんと言ったわね!!」
「何だよ…オレがひろつぐに何を言ったと言うのだよぉ?」
「あんたはいつからケチな人間になってしまったのかしらね!!サナが作ってくれた手料理をひろつぐが食べたら困る理由があると言うのか!?」
「そんなことは言っていないよぉ…」
「キーッ!!何なのよひろゆきは!!あんたが言った言葉が原因でアタシはひろつぐからきつい暴力をふるわれているのよ!!アタシはブチキレているのよ!!あんたこそ何なのよ!?アタシにきつい暴力をふるってサナにばかりもとめて、他の女と浮気をして…そんな悪いことばかりを繰り返していたからやくざに半殺しにされたのでしょ!!もうこらえへんけん!!」

アタシはワーッ!!となって、ダイニングのテーブルを思い切りひっくり返した。

(ガラガラガラガシャーン!!)

食卓がびっくり返ったので、サナが作ってくれた手料理を食べることができなくなったとひろゆきが怒って、アタシに殴りかかってきたので、アタシはひろゆきとドカバキの大ゲンカを起こしてしまった。

「やめて!!大ゲンカをしないでよ!!」

義母は、アタシとひろゆきがドカバキの大ゲンカを起こしていたのでやめてと言うたけど、止まらなかった。

「ワーッ!!ワーッ!!ワーッ!!」

この時、ひろつぐもドカバキの大ゲンカの中に介入してしたので、さらにひどい大ゲンカになってしまった。

サイアクだわ…

何なのよこの家は一体…

気に入らないことがあったら、アタシに八つ当たりをしてきつい暴力をふるうだけではなく、ドカバキの大ゲンカを起こすのね…

義母が自分さえよければいい考えしか持ってへんけん、ひろゆきとひろつぐはクソタワケ野郎になったんよ!!

この時、アタシはガマンの限度を大きく超えていた。

7月15日の事件を境にして、アタシはひろつぐとひろゆきと義母とひどい大ゲンカを繰り返すようになっていたので、深刻な対立を強めたのと同時に亀裂が大きくなっていた。

アタシは、外に出て朝から晩遅くまでバイトを複数掛け持ちしながら働いておカネを稼いで、バイトが終わるとクタクタになって家に帰ってくることの繰り返し…

ひろゆきは、無理なことばかりを押し付ける…

ひろつぐは、アタシが持ち帰ったローソンの売れ残りのお弁当や牛丼屋さんのテイクアウトの牛丼ばかりで料理を作ってくれんと言うて、働くお嫁さんがどうのこうのとグチャグチャに言うて来る…

アタシは、ひろつぐとひろゆきがはぐいたらしいから、気に入らんことがあったらふたりに八つ当たりをしていた。

義母も義母で、働くお嫁さんがいかんとグダグダグダグダグダグダグダグダ文句ばかりを言うてくるけん、アタシは『そう言う義母さまも、パートサテライトに行ってパートを探して面接を受けて採用をもらいなさいよ!!』と言うてから『アタシのことをとやかく言うのだったらあんたも外に出て働きなさいよ!!』と怒鳴りかえしていた。

もうだめ…

しんどいわ…

アタシの気持ちは、パンクする一歩手前におちいっていたので、極めて危険な状態であった。

7月23日に、ひろつぐが飯田市内のナイトクラブで働いているオーストラリア人のホステスさんと浮気をしていた上に妊娠騒ぎを起こしていたことが明らかになった。

この日の夕方、家にナイトクラブの店長と幹部補佐の男とホステスさん本人が来ていた。

家の居間には、ひろつぐとひろゆきとサナと義母がいて、深々と頭を下げて店長と幹部補佐の男の前であやまっていた。

しかし、ひろつぐはあやまろうとせずに開き直った声でアタシが赤ちゃんを産めない体になっているから(オーストラリア人のホステスさん)と再婚すると言い出した。

その事を聞いたアタシは、はらわたが思い切り煮えくり返っていたので、居間に行って大ゲンカを起こしたった。

折りが悪いことに、この日のアタシはバイト先のガストでイヤなことがあったけん、相当ムシャクシャしていた。

どこへ怒りをぶつければよいのかと分かなかったアタシは、真っ先にひろつぐに殴りかかっていった。

「キーッ!!何なのよひろつぐは一体!!そんなにアタシのことを捨てて他の女と一緒になりたいと言うのかしら!!上等だわ!!もう怒ったわよ!!アタシね!!今日限りでこの家を出てひとりぼっちで遠い街へ行くけん!!そんなにアタシのことを捨てたいのだったら捨てなさいよ!!」
「こずえ…違うのだよ…待ってくれ…」
「ふざけるな!!」

(ドカッ!!ドカッ!!ドカッ!!)

アタシは、右足でひろつぐを思い切りけとばした後、家出の準備を始めた。

それから2時間後のことであった。

アタシは、着替えとメイク道具をぎっしりと詰め込んだボストンバックとさいふとスマホと貴重品が入っている赤茶色のバッグを持って、家出したった。

ひろつぐの家から家出をしたアタシは、飯田市内に続く県道をひとりぼっちで歩いていた。

こんなことになるのだったら、再婚なんかするんじゃなかったわ…

こんなことになるのだったら…

アタシは、ボストンバックと赤茶色のバッグを持って泣きながら夜の道を歩いていた。

アタシは…

小さいときに親のわがままが原因で各地を転々とすることばかりを繰り返していたから…

ひとつの街に定住することができんのよ…

アタシは…

やさぐれ女として生きて行くより…

他はないのよ…
< 60 / 70 >

この作品をシェア

pagetop