こっちじゃよくあることです。
「え~と、まず公的機関の戸籍類でしょう。それと銀行の口座はまず解約して…結婚資金に貯めていた定期も解約して…あ~現金どうしよう。あ、そうだ!実家のタンスにでも入れて置いて…。」

リストを書いていくと、各種カードの会社、生命保険会社、ネット通販の会社…自分でも驚くほどにこの世界に痕跡を残している。高校の在校生リストからも削除しておかなきゃ…自分が写っている卒アルの写真は仕方ない。10年以上も経てば『そんな子居たっけ?』レベルの存在感の薄い子だった自信はある。

今思えば友人関係も希薄だった…。初めからこの世界の人達に深入りするつもりはなかったのか…無意識で自分がそういう態度になっていたことに気が付いて、凹む。

「だから勇樹にもフラれるんだよ…。」

私はノートパソコンの前に座った。電源の入っていない真っ黒の画面にソッと指先を付ける。魔力を流し込んでいきながら、電波と魔力を混じり合わせていく。

「よし、繋がった…まずはカード名義の痕跡を…。」

電子機器は便利だ。だが便利な反面ネット上でどことでも繋がっている。一度電波と魔力を絡めてしまえば世界中のどのサーバーにも入り込める。

私がハッカーだったらどうなるんだろう?まあ興味は無いけどね。

繋がったサーバーから私は思いつく限りの自分の個人データを消して行った。思いつく痕跡は消せた。パソコンの画面から指を離すと、今度はA4のコピー用紙を取り出して、細字マジックで魔法陣を描く。

これも何だかな~だが、こちらの世界の紙でも筆記具は何でも可で、こうやって正確に魔法陣を描き込めば普通に術が発動する。情緒がない?異世界の魔術っぽい雰囲気も皆無だが仕方ない。

「出来たっ記憶誘導魔法。」

私はすぐに転移魔法を発動した。ますはコンビニだ。

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