こっちじゃよくあることです。
「どうしてあんたが来てるのよっ!」
勝手に来ました…と言ったらもっと怒りそうなので、浮気女は無視して聡子さんに静かに頭を下げた。聡子さんに会うのもこれが最後になるだろう。
「お邪魔しました、帰ります。聡子さんお元気で。」
「莉奈ちゃ…!」
私の言葉があまりにも別れの言葉過ぎたのか、聡子さんはまた泣き出してしまった。これはこれで帰りづらい…。
「勇樹のお母さんに媚び売って嫌な女っ!」
とんでもない暴言をぶちかまして浮気女は勇樹の側に近づいて行った。
はあ…結構口の悪い浮気女だな。聡子さんは泣きながら怒るという荒業をやってのけながら
「何あの子っ!勇ちゃんの馬鹿っ!」
と当たり散らしていた。しかし…気になることがある。勇樹の容態だ。意識は戻ったと聞いたのだが、おかしい…。
勇樹の体…特に下半身から魔力の流れが全然見えなかったのだ。どういうことなの?
勇樹の姿をもう一度見ようとした時に、浮気女と目が合ってものすごく睨まれた。
睨みたいのはこっちだよ…。
私は一旦帰ります、また来ますと聡子さんに断ってから病院を後にした。
ものすごく迷っている。勇樹にしてみれば別れた元カノのくせに…と言うかもしれない。
こんな心配な状況で元の世界になんて帰っていられない。
私は急いで、勇樹の家まで転移し、記憶誘導魔法のコピー紙を回収し、自分の家の魔法陣も回収した。そして、口座を解約したお金を引き出しの中から取り出した。
ごめんね、もう少しこの世界にいさせてね。
私は自分のマンションに戻ると捨てようと準備していた服や小物を再び、実家の自室に移す作業をした。こんなことなら捨てるんじゃなかった~と思ったけど仕方ない。
本当に私の我儘だ…最後の最後まで勝手なことをしている…。