こっちじゃよくあることです。

「俺の前でも隠してた?」

勇樹は目を開けて私を見ていた。

「隠してた。」

勇樹の魔質がグニャリと歪んだ。傷つけてしまった。でも根性悪くてゴメンね。私も傷ついていたんだよ、ざまあみろ。

「…。」

お互いに沈黙する。暫く沈黙していると聡子さんとお父さんが帰って来たので、席を譲って部屋を出た。ご両親の魔質はひどく落ち込んでいて悲しみに沈んでいた。

恐らく、勇樹に打ち明けるつもりだ。

私はカフェスペースに移動し、椅子に座った。

勇樹の病状を聞いて考えていたことがある。

勇樹の体を私の魔術で治すことは出来ないか?…だ。

異世界人の体の治療を行うのは初めてだ。もしかすると治療中、命の危険があるかもしれない。

そもそも勇樹の体が私の魔力を拒絶したら治療は出来ない。そのためには勇樹本人の『魔術治療を受け入れる意思』がなければいけない。

その為には私の正体を勇樹に話すこと。そして魔法を受け入れてもらう事。下半身不随の患者の治療は初めてであり、異世界人の勇樹にはどんな副作用があるか分からないこと。

全て話すしかない。勇樹が信じてくれず拒否されたら…。もう諦めるしかない。諦めてあちらに戻り、そして捕まって…処罰される。

どちらにしても、勇樹が無事に怪我を完治しても私は帰る訳だし…これから待ち受ける私の死が覆る訳じゃない。

だったらやりたいようにしてみて、せめてこの有り余る魔力を少しでも役立たせてから死んでいきたい。私には勇樹の力になれる魔力がある。

たっぷりとカフェスペースで時間を潰してからICUに戻った。

聡子さんはベッドの横の収納に入れていた、入院に必要なものを入れている?ボストンバッグを出して片付けている。

「あ、莉奈ちゃん。今からICUから一般病棟に移るんだって。」

聡子さんの目は真っ赤になっている。

見ちゃいけないと思いつつ勇樹を見てみた。布団で顔を隠している。泣いているみたいだ。
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