こっちじゃよくあることです。
ICUに看護師さんが数名入って来て
「鴻田さん、お部屋移動しますね。」
と声かけしてからベッドを押して移動し始めた。私も聡子さんの手荷物を持って上げながら一緒に階上の一般病棟に移動する。
「勇樹に言ったよ…。」
移動中、聡子さんが小さい声で呟いた。私に言ったようにも聞こえるし、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
「はい…。」
それしか言いようがなかった。それが事実だし現実だ。悪夢でもなければ、夢でもない。
どうしてこんなことになったのかな?
その時、とんでもないことに気が付いて血の気が引いた。
もしかして私のせい?
そうだ…どうしてそのことに気が付かなかった?そもそも…私が樫尾 莉奈として勇樹の同級生として現れなければ勇樹は当然『本当に巡り合うはずの彼女』と付き合っていたはず。
その彼女はどこにいる?
体がガクガクと震えた。もしかしたら、高校の同級生の中にいたのかもだし大学の知り合いの中にいたのかもしれない。それこそ浮気相手だと罵った、あの子が『本当に巡り合うはずの子』だったら?
「莉奈ちゃんどうしたの?」
足を止めてしまった私に聡子さんが振り向いた。
もし私が本物の彼女なら、勇樹はこんな事故にあっていなかったのではないか?
一度考えたらキリがない。そうとしか思えない。異世界から来た理を歪める存在の私が全ての元凶なのだ…。
もう迷うことはない。勇樹に全てを話そう。
私はベッドで布団を深くかぶる勇樹に小声で囁いた。
「今晩もう一度会いに来るから、話があるから。」
返事はないけど仕方ない。
勇樹は今、私なんかと話す余裕はないだろう。私のせいなんだ。ごめんね勇樹。