こっちじゃよくあることです。
夜、消灯の少し前

病院の夜間入口の前で、遁甲(とんこう)魔法を使った。簡単言うと姿をくらませる魔法だ。

夜間外来にきた急患らしき患者さんと付き添いの方と一緒について自動ドアを潜り抜ける。

ゆっくりと廊下を歩き、勇樹の居る病室の前に来た。実は四人部屋なのだ。私は静かに室内に入った。

勇樹は窓際のベッドだ勇樹のベッド周りに消音魔法を使う。

すると隣の閉め切ったカーテンの中から心拍数のお知らせ音が鳴り響いた。

しまった、魔術の影響で心電図モニターをおかしくしちゃったかな…。パタパタと看護師さんの足音が近づいて来たので勇樹に声かけをした。

「勇樹、入っていい?」

「え?莉奈…うん。」

カーテンを開けて中に入ると勇樹は目線を私の方へ向けていた。私はカーテンの中に入った時に遁甲魔法を解いていた。

「どうした…もう消灯。」

「すぐに話したいことがあったから…。」

私はベッドの横の椅子に腰かけた。隣のベッドでは看護師さんが心電図モニター横で作業して、患者さんに容態を聞いたりしている。

私が何となくその音に耳を澄ましていると、勇樹がポツンと呟いた。

「あのモニターの音っていうのかな…あれ聞いてるとドラマとか思い出す。容態が急変した人とかの場面でさ…。」

「ああ、あるね。発作とかのシーンね。」

「今日、あの音聞きながら俺もあんな風に死ぬのかな…とか考えた。」

「‼」

「すぐには死なないらしいけど、車椅子生活になるだろ?きっと体力も落ちるわ…多分一生親に世話かけまくる。それに親が居なくなった後の…介護とかさ、誰かに面倒見てもらわなきゃならねぇ…俺の人生、詰んだ。」

「勇樹…そのことで話があるの。」

私がそう切り出すと勇樹が目を瞑った。そして震える声でこう言った。

「お前の手は借りない。大丈夫だ。莉奈には迷惑はかけない。」

堪えていた涙が零れた。そうか…私はもう他人だもんね。でも大丈夫だよ。

「ううんそうじゃないの…もっと根本的なこと。」

「根本的…?」

「下半身不随自体を治さない?」


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