こっちじゃよくあることです。
イメージで魔術を発動するコツを掴んだ勇樹はものすごいスピードで魔術と魔力のコントロールを覚えていった。
勇樹の家に泊まり込みを始めて10日が過ぎた時だった。
朝から洗濯と掃除を済ませ、昼過ぎに食材の買い物に出かけようと勇樹のマンションを出た所で、勇樹の今カノ、マホ姉さんと遭遇した。
「リナさん…。」
私は慌てて頭を下げた。
なんとも間の悪い感じだ。勇樹がマホ姉さんの話を避けているし、今日は平日だしまさかマホ姉さん本人が突撃してくるとは思ってなかったのだ。
「私、ヘルパーの代わりなんです。」
マホ姉さんが何か口を開く前に話し出した。誤解させてはいけない。私は元カノだ。
「勇樹さんはまだ体力的にも介助が必要な時があるので、私一身上の都合により退職してまして、暇なんで…本当にそれだけの理由なんです。」
一気にそう言い切るともう一度頭を下げた。
そう…本当にお世話しているだけなんです。私もうすぐ異世界に帰りますからあなたの運命の人は必ずあなたの元に帰りますから、だから…。
「ご心配とかして頂かなくてもすぐ消えますから…。」
「リナさん?それ…。」
「失礼します。」
私は逃げ出した。反対方向へ駆け出すと、路地に逃げ込んで一気に転移した。樫尾の自宅の自分の部屋だった。
惨めだった。
自分の手を見る。魔力が流れてはいるが以前の自分の魔力より弱い。
きっと勇樹の体の治療をする時に、自分の魔力を移植してしまったのだろう。私自身の魔力値が下がってしまった。これは嬉しい誤算だった。もう以前のような高魔力で側にいる人達に魔力あたりを起こさせない。これで私も普通並みの魔術師になれた…はずだ。
だが、新たな問題が出て来てしまった。
潜在魔力量が下がってしまい『界渡り』を行うほど魔力が豊富ではなくなってしまったのだ。これでは界渡りの成功率が下がってしまう。
異世界に帰るのに…命がけになる危険性が出て来た。しかし迷っている暇は無い。
私は部屋に術式を展開し始めた。