Ⓒランページ
黒猫はそれには答えずに、月を見上げた。月からはスルスルと本が一冊降りてきて、黒猫の両手に収まった。
「ねえ、これが何かわかる?」
キミは「わからない」と答えた。白い表紙の本……というよりは冊子に近い。表紙には黒文字で大きく、
「ランページ?」
「そう。これは『ランページ』という小説」
「小説なの?」
「そうよ。それもあなたの小説なの」
「私の小説? 私が書いたの?」
「そうじゃない。これはあなたが大人になった時に、ある人から誕生日に書いてもらう小説なの」
「ある人って?」
「それはまだ言えない。でもね、これだけは覚えておいて。これを書いた人とあなたは会ってはいけない。絶対にね」
「どうして?」
「あなたに災いをもたらすのよ」
「誕生日にわざわざ小説を書いてくれる人なのに?」
「そう。もちろん、これを書いた時はあなたのことをとても良く想っている。でも最終的にはあなたのことを嫌いになる。とてつもない嫌悪感を剥き出しにしてね」
「それって私が悪いの?」
「いいえ、あなたは悪くない。かと言って彼が悪いわけでもない」
「彼ってことは、男の人なんだね、その人」
「ええそうよ。そしてあなたの本当の意味での『彼』になる男。彼と出会うことであなたはもうここへはしばらく来れなくなる。現実と夢の境目がつかなくなる。それがきっかけであなたはとても傷つく。だから出会ってはダメ。いい? 絶対にダメよ? 忠告はしたわよ」