Ⓒランページ




「どうですか? おかしなところないですか?」


僕を姿見かなんかと勘違いしているのか、キミは僕にそう聞いた。聞かれて思ったのは、おかしなところって何? ということ。


何を基準におかしくないと言えばいいのか、僕には全くもって理解できなかった。僕としては、キミが羽織った青のパーカーの意味がわからなかった。まず第一に、なぜ夏なのにパーカーなのかということ。第二にパーカーの存在そのものが謎。フードを被るわけじゃないのに、フードがついている。まるで食べないパセリみたいだと思った。パセリを乗せる意味はどう考えても彩りで、ああ、なるほど。パーカーのフードは彩りというか、飾りなのだと思った。それにパセリを食べる人は食べる。きっとフードも被る人は被るのだろう。


パーカーの中は白とグレーのボーダーのシャツ。その下は黒のショートパンツ。「まあいいんじゃないかな?」と答えると、キミは「うーん。そうですかね」とつま先から胸の辺りまでを眺めた。いいと思ってるから聞いているのだろうと僕は思う。なら、いいと言うのが正解なはずなのに、キミはどこか納得していない。僕の言い方が曖昧過ぎたのだろう。


「そうだよ。すごくセンスがいいと思う」


「本当ですか?」


「嘘でこんなこと言わないよ」


「そっか。それもそうですね! うん、ありがとうございます!」


キミはやっとのことで納得してくれた。僕はどっと疲れた。女心だけはどうも難しい。力を使って読めばわかるのだろうけど、それはあくまで言動の意味くらいなものだ。


この話の冒頭にも言ったけど、僕には人の気持ちがわからない。どうしてそういう感情が生まれるのか、僕にはまるっきりわからない。



< 109 / 143 >

この作品をシェア

pagetop