Ⓒランページ
キミは「帰る時間はまた連絡します」と言って、小走りで家を出た。そこからのことは、もう十分わかっているね?
キミの中で忘れもしない一日。おそらく人生で一番の一日だったのだから。
キミは迷いながら駅に着き、交通系ICカードに1000円チャージした。さあ改札に行こうというところで、太った男の外国人から声をかけられた。
「オーテマチ」
キミは何のことだかわからず、「ソーリー」と言って、小走りでその場を離れ、改札を通った。キミはいつだってそうだ。どこかそういう冷たいところがある。僕も人の気持ちがわからないけど、キミだってそうだ。キミは人の気持ちがわからない。キミは損得勘定で動く。それは自分が周りからいい人に見られるかどうかで決まる。ただ、結局は自分優先主義だから、急いでる時なんかに道を聞かれてもキミは平気で無視をする。そういう人間。
僕が言いたいこと、わかるかな?
キミはあの時、「何のことだか」わかっていたんだ。「オーテマチ」イコール「大手町駅」。つまりあの外国人の彼は大手町駅へ行きたかった。この電車で大手町駅へ行くにはどうすればいいか知りたかったんだ。キミはわからないフリをしたけど、わかっていたんだよ。にもかかわらずキミは心の中で「何のことだかわからない」ことにしたんだ。自分の心を騙す。そんなこともキミはできるんだ。
だから、あの時もきっとキミは気付いていたんだ。キミは最後まで気づいていないフリをして、僕に助けを乞うたけどね。自分が一番の被害者だ。自分がこの世で一番可哀想な人間だと思い込んで、パニックになって、感情的になる。それがキミという人間なんだよ。