Ⓒランページ




池袋駅に着いて、キミは約束の場所へ歩いた。


途中雨が降ってきて、マツモトキヨシでビニール傘を買った。ちなみにその傘は今も僕の家にある。


そして傘を差して小走り。待ち合わせ場所に到着。喫茶店ルノアール。あの男がよく執筆作業をするときに使う喫茶店だ。


キミは階段の下で男に電話をかけた。


「もしもし、着いた?」


「うん。着いたよ。今階段のとこにいる」


「ホント? それじゃ迎えに行く」


電話を繋げたまま、キミはドキドキしながら男を待った。階段に背を向けて、時々チラチラ振り返った。黒のTシャツに黒のチノパン、黒のスニーカーを履いた高校生くらいの男が階段を2段くらい降りたところで、手を挙げた。キミも小さく手を挙げて、ゆっくりと階段を上る。


「初めまして。ってのはちょっと変か」


と男が言う。キミが「そうだね。ちょっと変かも」と前髪で顔を隠しながら答える。


この時キミは男の顔をあまりよく見なかった。見ないようにした。見たら夢から覚めてしまうとでも思っていたんだろう。それか恥ずかしかったんだろう。それは男も同じで、男もキミをあまり見ないようにして、「こっちだよ」と降りた2段を上った。



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