Ⓒランページ
2、あの男には勝てない。
瞼の裏側は夜。暗い夜じゃなくて、近くで見る海みたいに深い青。
そんな空に浮かぶ月は絵本に出てくるような小太りの三日月。欠けた部分に黒猫が背を預けて、ギターを弾いている。
夜が木組みの街を包む。
ステンドグラスの入った窓、青々とした芝生の生えた庭の真ん中には白い噴水。大きな屋敷の真ん中にキミが一人、ぽつんと立っている。
キミは三日月に手を伸ばす。必死に、必死に。届くわけがないのに、そんなことわかっているのに、無邪気に手を伸ばす。
黒猫がキミに気付く。招き猫みたいに、右手を曲げて上下に振る。まるでキミを誘うように、挑発するように。