Ⓒランページ




そんなことを考えていると、一人の男のアバターが近づいてきて、キミにペコリと頭を下げた。


「こんばんは。可愛い服ですね。ガチャですか?」


キミはあの男への対抗心で、普段は返さない「こんばんは」を返した。


「ガチャですよ~」


「課金のやつですか?」


「そうです、課金のやつです。私微課金勢なので……(笑)」


キミはアバターに笑わせた。釣られて男のアバターも笑う。彼のアバターの上には『ケン』と表示されている。プロフィールを覗くと、趣味がピアノ、麻雀、カラオケとあり、年齢は24歳とあった。


「ピアノ弾けるんですか?」


「弾けますよ。最近はあんまりやってないですけどね......」


「すごいですね! どういうの弾けるんですか?」


「クラシックとかジャズとか、あとは洋楽とかもいくつか弾きますよ」


キミはなるほど、なかなか話せるじゃないの。と思った。ケンがピアノを弾く姿を想像する。色白で細く長い指が鍵盤を滑る穏やかな午後。開けた窓から入り込む春風が、カーテンを撫でるように揺らす。曲調はゆったりとしていて、ソファーに座りながら本を読んでいる私は思わずあくびをする。それを見たケンがピアノの間からフッと笑う。


悪くないとキミは思った。でも所詮は妄想。すべては妄想で、実際に会うこともなければ、恋に落ちることもない。出会いの一つのツールとしての地位を確立しつつあるSNSではあるが、SNSきっかけでの恋愛はどこか負けた感じがするとキミは考えている。



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