Ⓒランページ
その後も会話は続いた。入りが良かっただけにケンというこの男、なかなか興味深かった。
「ケンさんは嫌いな食べ物ってありますか?」
「生物が苦手です」
「生き物? 犬とか猫もですか?」
「違う違う(笑) ナマモノです」
「あー(笑) 魚とかってことですよね」
「そう。マグロと甘エビ以外は食べられないです」
「そうなんですねー、それだとお寿司屋さんとか行ってもあんまり楽しめないですね」
「そうなんです。いくらととろサーモンしか食べられないので......」
「え? ちょっと待って! いくらととろサーモンしか食べられないんですか?」
「うん。それしか食べられない」
「でもさっきマグロと甘エビ食べられるって言ったじゃないですか。それなのにお寿司のマグロと甘エビは食べられないんですか?」
「あ、そっか。そう言えばそうだよね。気づかなかった」
「なんじゃそりゃ(爆笑)」
そして、そんな会話の流れで他にもいろんなことがわかっていった。東京都に住む社会人で、一人暮らしをしていること。麻婆豆腐の素で作る麻婆パスタが得意料理なこと。眠れない夜は近所の荒川へ行くこと。荒川をじっと見ていると、吸い込まれそうになること。そして、彼女がいないこと。