Ⓒランページ
その頃、僕にはどこか不思議な力があるんじゃないかと思い始めていた。
それは相手の心が読めるということ。
今ではなるほど、特殊な力なのかもしれないtと認識しているが、当時は不思議でたまらなかった。
クイズの何が楽しいのだろう。ジャンケンをする意味ってなんだろう。どうして僕の髪が跳ねていることがおかしいのに、それを言わないんだろう。
そしてそれが徐々に周りにはできなくて、僕にしかできないことなんだと気づくようになると、今度はそれを利用したいと考えるようになった。
だから、何か手に入れたいものがあると必ずジャンケンをした。でも勝ち過ぎてしまうとこの力のことがバレてしまう可能性も加味して、勝っても負けても良い勝負の時には、負けるようにした。
学校のテストだってそうだ。テストを受けていると、みんなの答えが声でなく音でなく伝わる。その中から多数決で一番多い答えを書けば100点を採れたが、あまりに勉強ができると後々の人生、つまらないものになりそうだと直感的に思い、当たり障りのない点数を採った。
だから、恋愛で悩む理由が僕には一向にわからなかった。クラス全員の好きな人は把握していたし、中にはカップルが成立する組もあった。にもかかわらず、お互いアクションを起こすことなく、男の子は女の子に意地悪をし、女の子はそれを笑いながら怒るという奇妙な遊びをしている。なんだこの茶番劇は。これが好き同士の遊びなのだろうかと本気で思っていた。
僕のことを好きな人もいた。中には可愛い子もいて、でもそんなものどうでもよかった。その頃の僕の興味は、恋愛でもゲームでもない、物語の世界だった。
本だけは気持ちが読み取れなかった。次から次へと予想外の展開が起き、次はどうなるんだろうとページをめくるのが楽しかった。次第にドラマにもハマった。
でもそんな僕にも一つだけこの力のせいで損をすることがあった。それが映画。映画館で映画を観ようとすると必ずと言っていいほどネタバレが聞こえてくる。例えるなら、何度も聴いている音楽を聴いている感覚に近かった。次の場面や展開が何度も聴いている音楽の歌詞やメロディーのように見える、わかるのはいくらなんでも楽しめない。