Ⓒランページ




そんな僕だったが、恋愛経験はそれなりに積んだ。


中学で初めて流れで彼女を作った。流れというのは、僕に気がある相手の中からまあこれくらいなら付き合ってもいいかと思える人を厳選し、偶然を装うこと。


これがなかなかゲームみたいで面白かった。さも自分と気が合うと思わせるように趣味や好みを合わせた。かと言って全く同じではかえって不審に思われるから、時には外した。


そんな恋愛を繰り返していくうちに何だかバカバカしくなって、高校卒業と同時にしばらく恋愛とは距離を置くことにした。他に面白いものを見つけたからだった。


それがやはり物語の世界。映像の世界。映画。映画は人が作っている。正解、不正解のない芸術の世界で、いくら人の心を読めても、完璧に誰かを感動させたり、怖がらせるようなものは作れない。


そんな世界に触れたいと思い、スーツケース一つで上京した。


映画制作について勉強をすると、なるほど、奥が深いと思った。照明一つとっても、当てる角度や光量、ライトの種類で表情の映り方が全然違う。そこは100%センスの世界で、心が読める読めないなんか関係ない。非常に楽しかった。このままこの世界で飯が食えたら最高だろうなと思った。


でも、そう上手くいかないのが人生と言うべきか。僕はタチの悪い病気に罹り、その道を諦めざるを得なくなった。



< 64 / 143 >

この作品をシェア

pagetop