Ⓒランページ
10、なんだか、アリスみたいだ。
キミは僕となかなか目を合わせようとしなかったね。
キミからスーツケースを半ば強引に奪って、それを転がす僕の少し後ろから、首を上げて建物を見上げるキミはまるで、魔法の国にでも迷い込んだみたいに。
「なんだか、アリスみたいだ」
そう言って振り返ると、キミは僕と一瞬だけ目を合わせて、「あ、ごめんなさい。何ですか?」と言った。
その目が1、5倍ほど見開かれていたのと、最近タメ口になったのに、敬語に戻っているところからでも察せるほど、キミは緊張していた。
「いや、アリスみたいだなって」
「アリス、ですか?」
「そう、アリス。ルイスキャロルの」
「あ、ルイスキャロルの!」
「そう。それにそっくりだなって」
「私がですか? ロングだからですかね……」
「いや、容姿じゃなくて……」
こんな感じで、会話は噛み合わなかった。噛み合わせようともしていなかったのかもしれない。キミの興味は他にあった。