Ⓒランページ




「どうしてケンさんは夏なのに、長袖のシャツなんか着てるんですか?」


「日焼け対策」


「あー、肌白いですもんね」


「冗談だよ」と笑ってみせて、


「肌を露出するのがあんまり好きじゃないんだ」


「どうしてですか? せっかく白いし、細いのに」


「だからだよ。夏なのに白い肌、しかもその腕は細い。病人ではあるんだけど、これだといかにもって感じがする」


「病気持ってるんでしたっけ?」


「言わなかったっけ?」


「あー、そういえば言ってた気もします」


キミのスーツケースにかかとが当たった。かかとに当たって跳ねたスーツケースが水たまりで跳ねる。「あ、ごめん」と後ろを振り返ると、キミは「あ、いや、全然。何ならもっと蹴っちゃってください」と訳の分からないことを言った。


確信をついた。


「緊張してる?」


「え? そう見えますか?」


「そうにしか見えないよ」とまた笑ってみせて、


「明日はもっと緊張しそうだね」


キミはわかりやすく下を向いて照れた。初めは耐えようとしているようだったけど、我慢できずに、顔をくしゃくしゃとさせて、「もう、何でそんなこと言うんですかー!」と抗議した。


ああ、めんどくさい女。



< 86 / 143 >

この作品をシェア

pagetop