Ⓒランページ
書いている間、父はタバコを吸いながら酒を飲んで待つ。僕は父が酔ってしまう前に完成させることで躍起になっていた。父に殴られないためだ。
完成すると、父が読む。読む速度はさすが小説家と言うべきか、それとも本当は読んでなどいないのか、僕にはわからなかった。
感想はすぐに返ってくる。面白ければ二度頷いて部屋に帰っていく。つまらなければ殴られて書き直し。そのどちらかしかなかった。
そんな父を持つ僕だったけど、本を読むのは好きだった。父が散歩や打ち合わせで家を空けている間、こっそり父の部屋に忍び込み、本棚に並んだ本を読み漁った。
父の持つ本からはタバコの匂いがした。これが本の匂いなのだと僕は本気で思っていた。
今でもタバコを吸うと、あのつらかった日々が蘇ってくる。僕にとってのタバコの匂いはそれだった。