Ⓒランページ




驚いたようにそう言った。きっとそれは物が少なかったせいだろうと思う。


あるのはベッドとパソコンデスク、パソコン、リビングチェア、3段のカラーボックス、そして大きな本棚くらいなもので、他には何も置いていない。物を増やしたくないタチで、服だって黒のチノパンが1本と、3着くらいのシャツ(色は白が2枚と黒が1枚)、靴下が2足、パンツが2枚くらいしかない。寝巻きは上下黒のスウェットが1セット、バスタオルは2枚、ハンドタオルが2枚、これだけのものがカラーボックスの2段に収まる。


ついでに言うと、カラーボックスの一番上の段にはドライヤー、ハンガー、電動髭剃り、スタンドミラー、ソーイングセットくらい。パソコンデスクの上にはノートパソコンと灰皿、筆記用具、読みかけの文庫本があって、側にはゴミ箱。キミの部屋にあるようなこたつ机はない。テレビもないし、炊飯器や電子レンジ、冷蔵庫もない。


「自炊とかしないんですか?」


「いやするよ。麻婆豆腐をよく作る」


「でも、冷蔵庫ないですよね?」


キミは完全に僕を疑っているようだった。まあ無理もないと思う。話と違うことがあるとどうしても違和感が生まれるものだ。それはどんな物語だってそうだ。


しかしこれが所謂乙女の感というやつなのだろう。キミは間違っていない。勘が冴えている。僕はキミに対して「ケン」という青年を作り上げた。それはまるで物語に出てくるキャラクター設定と同じようなものだ。僕はキミに嘘をついている。


だからこそ、違和感のない訂正が必要。


「疑ってるの?」


「いや、そういうわけじゃないですけど、なんか冷蔵庫もないのに自炊っておかしいなって思って」


それを人は疑っていると言うんだよ。とは言わず、僕はキミをキッチンの前に立たせた。


「そこの引き出しを開けてごらん」


言われた通りキミが開けると、包丁、まな板、おたまなどの調理器具が入っている。鍋もフライパンも、やかんもある。


「食材はその日に食べる分だけを買ってくるんだよ」


「お米はどうするんですか? 炊飯器も電子レンジもないみたいだし」


「湯煎するんだよ。ガスはあるからね」


「レトルトご飯って湯煎できるんですね」


「まあね。時間はかかるけど」




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