Ⓒランページ
「あ、これ!」
とキミが手に取った本。ドストエフスキーの『罪と罰』だった。
「これ私も読みました」
「読みやすいよね、ドストエフスキーの中では比較的」
「ですね。ドストエフスキーの入門編って感じです」
「それで、キミはこれを読んでどう思ったの?」
キミは「そうですねえ」と言って、顎に手をやった。シャーロックホームズにでもなったつもりなのだろうか。
「愛があれば、罪を償えるものなんだなって思いました」
「そうかな?」と思わず言ってしまった。そこにやはり引っかかったキミが「ケンさんは『ツミバツ』を読んでどう思ったんですか?」と聞いた。「ツミバツ」と略すタイプの人がたまにいるけれど、正直僕は嫌いだ。
「僕は」言ってしまおうと思った。
「ラスコーリニコフは……」
「主人公ですか?」
「そう。ラスコーリニコフ。あいつはきっとまた罪を重ねるんじゃないかと思う」
「どうしてそう思うんですか? だって改心したじゃないですか。それも愛の力で」
「人間の本質はそう簡単に変わらないと僕は思っている。盗みを働いて、その上、人を殺すような男だよ? そもそもそんな奴がまともだと言えるかな。僕はとてもそうは思えない」
「でも罪を背負った罰を受けたことで、きっと改心したと思います。もう二度とあんなことはしたくないって」
「そうだといいね」
これは本心だった。本心では僕はこう思っていたんだよ。キミの犯した罪を僕が与える罰によってキミが改心すること。心の底から謝罪の言葉を口にすること。それこそが僕が求める最低限のことで、しかし、うーん、どうだろう。とも思った。そんなことで済ませていいのだろうか。