悪役令嬢だって恋をする
20、朝の目覚め
「ぉい。…ラシェル、そろそろ起きろ」
遠くから良い声が聞こえてくる。これはヨダレが垂れるほどの美声だ。そしてこの状況下、起きたら負けだ。
密着する肌の感触、温かい体温、いい匂い、これはもう天国としか思えない。
ラシェルの手に馴染む、なめし革のような引き締まった肌を、さわさわと撫でていたら。
「ゥッ……」
頭上から甘かやな声が響き、お腹の中がキュンッと伸縮した。胸もキュンキュンだが、子宮もキュンキュンだ。
せっかくウットリ心地よくなっていたのにだ、腹辺りを押してくる硬い男芯でラシェルの夢心地が溶ける。
「…性欲過多は、正直キモいです」
(あ、萎んだ)
肌の感触を堪能(触るのはやめない)しながらラシェルはアベルの腕の中から様子を伺う。
(あ、傷ついてる)
「……そろそろ夜が明けるから、戻らないと…な」
「はーい」
名残り惜しいが、ラシェルはアベルの腕の中から出て、一応ガウンを着用する。
その間、アベルは無言。ベッドの上に座り放心している美形。どのような姿でも、絶世の美貌は衰えない。見事だ。
いちいちラシェルの言動で傷つくアベルは、ラシェルの父ヴィルヘルムと同じで笑いがこみ上げてくる。
どこまでもヴィルヘルムに似るアベルは、ラシェルに心地よい安心感をもたらす。
股の間の男棒がヘニョとしていて、可愛くて堪らない。ラシェルの一言で一喜一憂するアベルの急所といえる物体は、ラシェルの玩具だ。
決して言わないが。
「冗談よ? 据え膳食わぬは男の恥ってのに、どれだけ食わない気かな?って意地悪しただけよ」
「だからな!!」
「うん、分かってるわ。私が大事だからでしょ?」
ラシェルはもう一度アベルの近くに戻る。明るみつつある室内で、夜にしたように今度は自ら胡座をかいているアベルの上に座った。
がっつり女の子の大事な割れ目と蜜豆がアベルの目に入る。
「あ、また勃った」
「勘弁してくれ、俺の股間で遊ぶな」
「何よ、私が帰った後の《おかず》を提供したんじゃない。男の人は《おかず》があれば抜く時気持ちいいのでしょ? 触れないけど、見るならいいわよね?」
「ラシェル、あのな、どこで拾ってくるんだ、その無駄な情報は!?」
アベルこそ何故そこまで頭が硬いのか?そこがラシェルも好きなのだが、頑なも過ぎると嫌になる。
「怒らないで、もう帰るから」
アベルの唇に、ふにゅふにゅと唇を合わせて文句を塞ぐ。これだけは、口付けだけは拒否しないし奪ってくるので、舌をグニグニされるのを堪能する。
クチュ………クチュ………チュッ……
「ヤバイな、止まらない…」
「アベルお兄様、口づけ上手すぎ…」
ラシェルは熱くなった自分の身体を、両腕で抱きしめ性欲を逃す。
「…はぁっ、はぁぁぁ…」
「アベルお兄様、これ、どっちも辛いわよね」
「だ、な……」
「「はぁぁぁぁ」」互いに溜め息。
ラシェルは大事にならないよう侍女達が部屋に来る前に帰らないといけない。流石にこれがバレたら生娘だからとて、許してはくれないだろう。
ベッドから降りる瞬間、ラシェルは思う。
アベルにはずっと、ずっと、ずーっとラシェルの事を考えて欲しい。
今日の任務で、アバズレ女デール伯爵令嬢マルシェをエスコートしている真っ只中でも、脳内はラシェル一択でいて欲しい、わがままだろうが構うものかだ。
あの女とベタベタ、恋人のように側にいるアベルを想像するだけで泣きたくなる。
だから最後の意地悪を置き土産だ。
向かい合わせのラシェルとアベル。ラシェルはベッドから降りるところだから、少し距離があった。
バタンッ。
ラシェルはベッドに仰向けに倒れた。で、立て膝をし、おもいきり股を開く。ご開帳。色々大事な部分がアベルの目の前に晒される。
「なっ!? ゥッ!! イッ!!!」
唸った(フル勃起した)アベルに満足し、ラシェルは意気揚々と来た道(隠し通路)を帰る。
日の光が入らない真っ暗な通路だが、まるで花畑を歩くように、鼻歌を歌いながら自身の寝室に戻る。
「ちゃんと、私を《おかず》にしてるかな〜」
もちろんのこと、しっかり《おかず》にはなっているが、それはアベルには強烈で触るどころか、ラシェルの性器は見るのも初めてだ。
己の男性器は玩具のように、摘み、引っ張り、叩きと、色々ラシェルに遊ばれているが、逆はない。
「……アベル様、大丈夫…でしょうか?」
シャワー室の外から不安げにそして気遣う侍従の声が聞こえる。
シャー シャー シャー シャー。
「…大丈夫、」
(な訳がない!!! これはどうしたらいい!? 出しても出しても、ラシェルのアソコがチラついて!!
萎えない!!! くそっ、そろそろ射精し過ぎて玉袋が痛い!!!)
何度目か分からない射精。
アベルはひたすら陰茎を元のサイズに戻すのに必死だった。
***
朝の鍛錬。
煩悩に支配され過ぎて、このままでは埒が明かない為、少々…。だいぶ硬さがあるままトラウザーズを履いた。
軍使用の厚手のトラウザーズだ。多少押しつぶせる。先端が擦れて痛いのも萎えるのに効果的だと言い聞かせて、痛みを堪えながら騎士演習場に向かおうと決心し。
朝食も摂らず、騎士演習場に入る。
「何故殿下が!?」と、嫌そうに言われながらも「鍛錬だ」とクールに答え、早朝練習をしていた騎士を次々とのしていく。
最後は鍛錬に来ていた叔父であるヴィルヘルム相手に、見事な立ち回りを披露し、無理矢理叩き起こされた性欲をやっと鎮められた。
「はぁぁぁぁ…(やっと、萎えた…)」
円形闘技場の石段に腰掛け、脱力するアベル。ぼたぼたと流れ落ちる汗を乱暴にタオルで拭いたところで、ヴィルヘルムが隣りに座ってきた。
そのヴィルヘルムも汗だくだ。
「流石だなアベル。私をここまで汗だくにさせるのはお前だけだ」
キラキラしいヴィルヘルムに、アベルは苦笑いだ。
「……ヴィル叔父上、眩しいくらい男前ですね。人に、とくに女には会わないよう帰ってください。色気に巻き込まれた人が失神していきますよ」
「同じ台詞を返してやろう、アベル」
「……はは」
アベルの乾いた笑いが痛々しい。
色々想像できて、ヴィルヘルムはひたすら申し訳なくなっていた。
ラシェルの寂しい病は知っている「やめてくれ」と言っても隠し扉から寝室に侵入してくるラシェルに、ヴィルヘルムは本気で頭を悩ませていた。
それは突如とし無くなった。
理由は一つ。ヴィルヘルムがラシェルにアベルの部屋までの隠し通路の順路を教えたからだ。
ティーナとの二人きりの時間をとられたくないのと、早々からラシェルの夫にはアベルでと思っていたから、添い寝はアベルに任せたのだ。
「……アベル、悪かったな」
「大丈夫です! 大丈夫ですから、分かってます。ですが今は名前も禁止で!! これ以上は冗談なく股間が痛い」
「…………(何をしたか、恐くて聞けない)」
何があったか大体想像出来る。朝のラシェルが見てはならないほど超絶色っぽかったからだ。
胸に手を置き、「ふぅぅぅ」やら「うふっ」やら、「ぁあふっんっっ」と、桃色の吐息を出しまくり。
朝から侍従の男達を前屈みにさせ、しまいには「胸の先端が…うずくの…」と真っ赤な顔で侍女に話しだす始末。
ラシェルは見事に男女問わず、給仕する皆を硬直させていた。
我が娘ながら、悪女としか言えない雰囲気にヴィルヘルムはドン引きし、嫌な予感が脳をよぎる。
満足いっぱいのラシェルの顔を見て、ヴィルヘルムはグラハの間(王族専用の食事の間)を早々と出て、その足で騎士演習場に向かった。
そこでアベルを見つけ、合点がいく。
昔の自分を見ているようで、いや、実際に身体をつかって押してくるラシェルは、昔のティーナよりタチが悪い。
ヴィルヘルムだけはアベルの気持ちが分かる為、他の女を勧めはしない。ヴィルヘルムに出来る発散方法で手助けするまでだ。
「………もう一度、手合わせやるか?」
「…すみません。手合わせ、宜しくお願いします」
ヴィルヘルムはアベルの肩を優しさ込めて、ポンポンと叩く。
「いや、この件は私のせいだ。アベルはよく耐えている。
無事婚約したら、結婚まで待たなくていいからな。あれは体力があるから、三日三晩寝室に篭ればいい」
「……ありがとう…ございます」
何か目に見えない同盟が出来たように二人は感じる。
似た者どうしのアベルとヴィルヘルムは、二人して腰をあげ、アベルの性欲発散の手助けをヴィルヘルムはかってでた。