私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
「あの猿渡さん、僕らの計画ってなんですか?」

 妙な雰囲気を打破したくて、勇気を出して猿渡さんに話しかけると、顔がこわばるほどの驚き方をして一時停止する。リモコンで停めたようにまったく動かないことに、こっちが逆に驚いてしまった。

「関西人って、なにをするのかわからないから、嫌な感じで目につくよ。無理やり笑いをとろうとするムダな行動。僕は絶対に真似しない」

 離れた席にいた高藤さんが私の傍にやって来て、猿渡さんのオデコにデコピンを食らわせた。

「いったいなぁ。もっと優しく起動させたってなぁ」

「起動させるのは、女のコとベッドを共にしたときだけ。野郎に優しくするわけがない。ちなみにヒツジちゃんは、今夜あいてる?」

「ヒツジちゃん、あいてるなんて言ぅたら、このタラシに頭から食われるで」

 あいてると言おうとした瞬間に、猿渡さんが糸目をいやらしく下げて指摘した。

「そうそう。社内なら決定的な証拠をさっきのように録画できるけど、外でおこなわれることについては、俺は関与できないから諦めてくれ」

 松本さんまで加わり、話がどんどん大きくなっていく。

「山田はおらんけど、このまま僕らの計画を進めるで。新入社員歓迎一泊旅行の出し物!」

「春と言えばそんな季節ですねぇ。暖かくなってきたら、こういうのが各地に出没するし!」

 原尾さんがわざわざジャケットのボタンを外してバサバサさせながら、腰を前後に動かした。

(イケおじなのに、どうしてそういうことをしちゃうんだろうな。残念すぎる)

「ヒツジちゃんは営業部のとき、歓迎会でなにをしたんだ?」

 変なことを続ける原尾さんを完全スルーして、高藤さんが問いかけた。

「昨年はマジックのサポートしてました。マジック自体も簡単なものでしたし、練習も前日にちょっとやった程度で、失敗しませんでした」

「せやな。あそこは毎年力を入れてないから、簡単なものしかしとらん。一番の敵は経理部や」

 猿渡さんのセリフで、昨年優勝した経理部の出し物、ロミオとジュリエットを思い出した。

「僕らも負けてはいられません。須藤課長にどやされる前に、出し物を決めましょう。ヒツジちゃんはここで電話番していてね!」

 高藤さんが隣を指さして、皆をミーティングルームに誘導する。

「わかりました。なにかあったら顔を出しますので」

「須藤課長が戻ってきて、ふたりきりになっても大丈夫なように、見張ってやるからな!」

 松本さんがパソコン持参で出て行ったことで、この部署にも監視カメラがあることを知った。

「ありがとうございます。とりあえずお掃除しながら電話番しますね……」

 しっかり見張られることがわかったせいで、掃除の間中、まったく気が抜けなかった。
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