私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
(なに、この感じ。まるで触れてはいけないものに触れてしまって、なんとか誤魔化そうと、そろって目を合わせないようにしているみたいな?)
「わかってるヤツ名乗り出ろ。営業部と同じコーヒーメーカーを持ってきたヤツは誰なんだ? 俺が怒ることを知ってて、わざと持ってきたのか?」
須藤課長の怒鳴り声に、一様に肩を竦める面々。事情を知らない私はデスクの前にいるせいで、怒号の直撃を食らっているため、鼓膜がキンキンした。
パワハラの炸裂をやり過ごすべく目を閉じて、早く誰かなんとかしてくれと、心の中でお祈りする。
「あ、あのぅ、ちょっと前にコーヒーメーカーが壊れたじゃないですか……」
振り返ると、戸口に近いデスクの男性社員が、怖々と説明しだした。ほかのメンツはあからさまに、ほっとした表情になる。
「ああ、そうだな。保温されなくなって、飲みたいときに熱いコーヒーが飲めなくなった」
「経理に相談したら、他所の部署で余ってるものを回すからと言われまして」
「ほほう、営業部で余ったものを、わざわざ恵んでもらったというわけか」
須藤課長の声が、より一層低くなる。唸り声にも似たそれに私だけじゃなく、そこにいるみんながゾワッとしたものを感じて、体を縮こませた。
「落ち着いて聞いてください。営業部から恵んでもらったものということを、僕は知らなかったんです。経理の小鳥遊さんが新品同様のものなので、壊れる心配ないですねって、笑顔で渡してくれて」
(経理の小鳥遊さんって、確か女子社員の中で一番かわいいって噂されてるコじゃなかったっけ?)
「経理の小鳥遊沙綾の笑顔に騙されて、どこから回ってきたものかも調べずに、ホイホイもらったというわけか、おまえは!」
言いながらデスクを殴りつける行為を目の当たりにして、今すぐ営業部に戻りたくなった。
「すみませんっ、新品同様という言葉に喜んでしまいまして」
「違うだろ。小鳥遊沙綾の笑顔に見惚れて、聞き忘れただけだろう?」
須藤課長はなぜか私の肩を叩いて、戸口に近い男性社員に問いかける。まるで人質になった気分だった。
「小鳥遊さんの笑顔、は……確かにかわいかったですが」
「まったく全然一ミリもいいなとは思わなかったんだな?おまえだけに向けられた笑顔なのに……」
見るからに嫌な笑みを浮かべる顔がすぐ傍にあるだけで、心臓がバクバクする。肩に置かれた手の重たいこと、この上ない!
「すみませんっ、見惚れました。超絶かわいいと思ってしまいました!」
「ヒツジ、そういうことだから、ここでの初仕事を与えてやる」
「喜んでお仕事させていただきますぅっ!」
ところどころ声を裏返して返事をしたら、肩に置かれた手が退けられたあとに、ひょいと財布を渡された。
「元気な返事のできるヤツは大好きだぞ。さっそくだが、これで新しいコーヒーメーカーを買ってこい。俺のポケットマネーで、安物は絶対に買うなよ」
「承知しました。行ってきます!」
「山田、荷物持ちしてやれ。ついでにここでの暮らし方を教えるように」
小鳥遊さんの笑顔のせいで叱られた男性社員の山田さんと一緒に、近くの家電量販店に行くことになったのだった。
「わかってるヤツ名乗り出ろ。営業部と同じコーヒーメーカーを持ってきたヤツは誰なんだ? 俺が怒ることを知ってて、わざと持ってきたのか?」
須藤課長の怒鳴り声に、一様に肩を竦める面々。事情を知らない私はデスクの前にいるせいで、怒号の直撃を食らっているため、鼓膜がキンキンした。
パワハラの炸裂をやり過ごすべく目を閉じて、早く誰かなんとかしてくれと、心の中でお祈りする。
「あ、あのぅ、ちょっと前にコーヒーメーカーが壊れたじゃないですか……」
振り返ると、戸口に近いデスクの男性社員が、怖々と説明しだした。ほかのメンツはあからさまに、ほっとした表情になる。
「ああ、そうだな。保温されなくなって、飲みたいときに熱いコーヒーが飲めなくなった」
「経理に相談したら、他所の部署で余ってるものを回すからと言われまして」
「ほほう、営業部で余ったものを、わざわざ恵んでもらったというわけか」
須藤課長の声が、より一層低くなる。唸り声にも似たそれに私だけじゃなく、そこにいるみんながゾワッとしたものを感じて、体を縮こませた。
「落ち着いて聞いてください。営業部から恵んでもらったものということを、僕は知らなかったんです。経理の小鳥遊さんが新品同様のものなので、壊れる心配ないですねって、笑顔で渡してくれて」
(経理の小鳥遊さんって、確か女子社員の中で一番かわいいって噂されてるコじゃなかったっけ?)
「経理の小鳥遊沙綾の笑顔に騙されて、どこから回ってきたものかも調べずに、ホイホイもらったというわけか、おまえは!」
言いながらデスクを殴りつける行為を目の当たりにして、今すぐ営業部に戻りたくなった。
「すみませんっ、新品同様という言葉に喜んでしまいまして」
「違うだろ。小鳥遊沙綾の笑顔に見惚れて、聞き忘れただけだろう?」
須藤課長はなぜか私の肩を叩いて、戸口に近い男性社員に問いかける。まるで人質になった気分だった。
「小鳥遊さんの笑顔、は……確かにかわいかったですが」
「まったく全然一ミリもいいなとは思わなかったんだな?おまえだけに向けられた笑顔なのに……」
見るからに嫌な笑みを浮かべる顔がすぐ傍にあるだけで、心臓がバクバクする。肩に置かれた手の重たいこと、この上ない!
「すみませんっ、見惚れました。超絶かわいいと思ってしまいました!」
「ヒツジ、そういうことだから、ここでの初仕事を与えてやる」
「喜んでお仕事させていただきますぅっ!」
ところどころ声を裏返して返事をしたら、肩に置かれた手が退けられたあとに、ひょいと財布を渡された。
「元気な返事のできるヤツは大好きだぞ。さっそくだが、これで新しいコーヒーメーカーを買ってこい。俺のポケットマネーで、安物は絶対に買うなよ」
「承知しました。行ってきます!」
「山田、荷物持ちしてやれ。ついでにここでの暮らし方を教えるように」
小鳥遊さんの笑顔のせいで叱られた男性社員の山田さんと一緒に、近くの家電量販店に行くことになったのだった。