私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
***

 愛衣さんが忙しそうに部署の掃除を手がける中、山田は急ぎの仕事を完成させるべく、パソコン作業に没頭。俺は別の案件についての書類に、手をつけていたのだが。

「…あ、んれぁた、…さぅれ」

 隣から聞こえるヤツらの声量がどんどん大きくなるせいで、気が散って仕方ない。時折笑い声も含まれるため、苛立ちが次第に加速していく。

「アイツら、もう少し静かに打ち合わせくらいできないのか。ちょっと注意してくる!」

 きちんと作業を保存してから、ミーティングルームに足を運んだ。

「おいコラ、部署にまで声が聞こえてるぞ。もう少しボリューム落とせよ」

 入室と同時に注意したら、笑顔の原尾がいきなり腕を掴み、中に無理やり引きずり込むと、慌てて扉を閉める。

「ようこそ、恋の経営戦略部に! 歓迎しますよ須藤課長!」

 高藤が意味深にニヤニヤしながら告げて、松本に流し目すると。

『俺のバカ〜〜〜! なんであんなことを言ってしまったんだぁ!』

 聞き覚えのある声が松本のパソコンからしたので、眉根を寄せたのだが。

「なっ!?」

 パソコンのモニターには、情けない俺の姿がバッチリ映し出されていることで、部署が盗撮されていたことをはじめて知った。

「めっちゃかわいそうだったな、昨日の須藤課長」

「山田くんのほうがいいとヒツジちゃんに言われたときの須藤課長の顔は、悲壮感に満ち溢れていてかわい掃除機」

「好きなのにああいう態度をされていたら、女のコはみんな嫌がりますよ」

 白い目で俺を見るメンバーに、返す言葉が見つからない。口を意味なくパクパク動かしているだけで、頬が熱くなっていく。

 まったく仲良くしたことがないのに、旧知の仲のように俺の肩に腕を回し、糸目をほんの少しだけ開いた猿渡が語りかける。

「僕らは適齢期の女性とキスしたことのない、須藤課長の味方でっせ。ヒツジちゃんを落とすために、手を貸してあげます」

 猿渡が告げた内容により、愛衣さんとのここでのやり取りも盗撮されたことがわかり、がっくりとうな垂れるしかなかった。

「そないに気を落とさんと、心強いって喜んでほしいわぁ。ちなみに僕は親が決めたナイスバディな許嫁がおるから、ヒツジちゃんに手を出さないことを誓うで。原尾さんは奥さんがおるし、高藤さんは?」

「僕はピュアな付き合いよりも、夜のお付き合いだけしたいから、ひとりに絞ることはしないし、同じ部署の女のコとは付き合わない主義だよ。松本さんは確か彼女いるよな?」

「ああ、違う会社にいる。浮気したら間違いなくすごい報復をされるから、絶対にできない」

「おっ、過去に浮気をしたんやな。じゃなきゃ報復される手口がわからへんやん」

 猿渡は俺の肩にのせてる腕に力を入れて、揺らしながらカラカラ笑う。

「彼女の誤解だって。とにかく殺されるよりも怖いことがわかってるから、須藤課長も安心してください」

 俺からの信用を得ようとして、自身の伴侶の有無をそれぞれ告げてくれたことは、実際嬉しかった。
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