私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
 目を瞬かせて驚いてる私に、猿渡さんはやるせなさそうな笑顔を見せた。

「ヒツジちゃんには説明しとかんとな。副社長の手足になって動いてるのが、僕らのいる経営戦略部。時期社長の椅子を狙っての采配や」

「営業部を潰すぞ! みたいに最初に言ってたのは、どうしてですか?」

 疑問を口にしたら、猿渡さんの片手が天井を、もう片方の手が左側の壁を指さす。

「副社長の対抗派閥が専務と常務なんやけど、ヤツらの手先という名の駒が、ヒツジちゃんがいた営業部にかなりおるんや。ソイツらの悪事を明るみにするのに、防犯カメラがうってつけだったっちゅーわけ」

 わかりやすい説明とジェスチャーにより、難なく理解することができたので、無言で頷いたのだけれど、今までなにも知らずに働いていた部署に悪いことをしている職員がいるとは、思いもしなかった。

 内心落ち込んだ私を神妙な顔つきで見た猿渡さんが、高藤さんに視線を向ける。

「高藤、どうしてそのことを須藤課長や僕らに相談しなかったんや?」

「それは、迷惑をかけたくなかったので」

「実際これだけの大騒動になったやん。それだけおまえに、隙があったという結果や。本命の彼女のこと、今までしっかり隠し通せたからって、僕らの目を欺くことができると思ぉてるんやろうけど、それは違うからな!」

 迫力のある怒号だった。思わず目をつぶって、体を縮こまるくらいに。

「高藤さん、その本命の彼女と付き合って、ヤルことした上で彼女を助けようと思った?」

 原尾さんの問いかけで、高藤さんは気まずそうにまぶたを伏せた。

「僕はなにもしてません……。清い関係を続けています」

「ますますおかしいやろ、それは。女を垂らし込む才能のある高藤が、半年もお預け食らったままなんて、普通じゃありえへんわ」

「猿渡さん、女性だっていろんなタイプの人がいますって」

 私が慌てて高藤さんのフォローをした途端に、須藤課長の席に座ってる松本さんが、ゲラゲラ声をたてて大笑いした。

「ヒツジ、おまえが高藤のワザを一番体感しているだろうに」

「高藤さんのワザ?」

「須藤課長とデートしたときに、ドキっとすることが何度かあったと思うんだけど? おまえからキスされて、嬉しさのあまりに大泣きしていた人間が繰り出すようなワザじゃなかっただろ」

 思い当たるフシのある松本さんのセリフに、茫然としながら高藤さんを見るしかなかった。

 女性と付き合ったことのない須藤課長が、あの日は要所要所でやたらと積極的だったことを思い出す。
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